放置された“少年の死”

第三者機関が翔さんの自殺の経緯を調べるなかで、判明したことがある。教育委員会は、翔さんが亡くなって4か月もの間、その事実を審議せず放置していたのだ。中学校のクラスメイトは、亡くなった事実さえ知らされていなかった。
生徒から担任に対して、「名簿から翔君の名前がなぜ急に消えたのか」「最近見ないけど今どうしているのか」といった声が複数寄せられたという。その都度、担任は「なにも答えられない」と返答していた。
千栄子さんは2022年8月、教育委員会に直接出向き、翔さんと学校のやりとりの記録や相談した内容が記された文書の開示請求を行った。しかし、教育委員会が開示した文書は、名前や日付以外は全て黒く塗られていた。理由は、「調査に支障が出る」(教育委員会)ためだという。
翔さんの「声」はここでも消されていた。
結局、学校が亡くなった事実をクラスメイトに伝えたのは、翔さんが命を絶って半年以上がすぎた2022年9月末だった。そして2022年10月、中学校の校長と教育委員会の担当者が訪ねてきた。亡くなってから7か月、学校側が自宅に入るのは、この日が初めてだ。

「お母さんの悲しみの深さを思いますとお言葉が出ないのが正直なところ。今回はこうしてまずはお悔やみを申し上げたい」(校長)
千栄子さんは息子の死の真相を知ろうと自らの口で質問を投げかけた。
「亡くなったことをクラスメイトに知らされなかった翔の気持ちをどう考えますか?」
「いじめはあったんですか?」
しかし、校長は同じ言葉を繰り返すだけだった。
「調査に影響が出ますので」
「答えは差し控えさせてください」
2023年1月末、泉南市は第三者委員会を設置し、ようやく調査を始めた。翔さんの死から約10か月が経っていた。