印象操作も自由自在!?照明の効果をあなどるなかれ
主人公の明墨でさえもいい人なのか悪い人なのか未だに判断がつかない本作。ネットでは物語の黒幕探しが白熱しているが、「実はそういったところも照明で演出しているんですよ」と鈴木氏は明かす。役者の表情の芝居が見どころの1つとなっていた『VIVANT』でもよく使われた、“片明かり”という技法と、その効果について語ってくれた。
片明かりという照らし方は、役者の顔半分にだけ光を当て、もう片方を暗くすることで、怖い印象を作る技法。全体に光が当たっている顔と、片側しか当たっていない顔を比べると、その差がわかりやすい。


「台本を読んでキャラクターを把握したら、善良な役には顔全面がきれいに見えるように光を当て、悪役は片側だけ照らして怖く見えるように差をつけています。そういう視点で観てもらえたら『あ、この人悪いんだな!」と気づいてもらえるかも。中には、本当はいい人だけど、わざと悪く見せている人もいるかもしれません…(笑)。そういったミスリードも含めて楽しんでもらえたら」と、ストーリーをより楽しむヒントを教えてくれた。
物語中盤以降、明墨の真の目的がわかり、明墨と牽制し合う仲の伊達原泰輔(野村萬斎)の思惑や悪企みも垣間見えてきた。「少しずつ伊達原の悪い一面が見えてきましたが、物語の序盤では敢えて善人役用の照明を当てていました。第6話で、紫ノ宮飛鳥(堀田真由)が倉田功(藤木直人)の面会に行った後、伊達原と廊下ですれ違うシーンがあるのですが、実はそこで初めて悪い人に見える片明かりの照明を当てているんです。気づいてもらえているかな?」と、自身が仕込んだ仕掛けについて楽しそうに振り返った。
目の光1つでキャラクターの印象が変わる
照明は、役柄のキャラクターによって目の光(キャッチ)の入れ具合を調整する重要な役割にもなっている。例えば、生き生きとしたキャラクターにはキャッチを入れ、悄然としたキャラクターには入れないようにしているそう。「明墨はどこか影のあるキャラクターなので、基本的にキャッチを入れないようにしています。唯一目がキラキラするのは、熱意の込もった弁論をしている時ですね」。そんな明墨とは対照的に、情熱を持った弁護士である赤峰には常にキャッチを入れているそう。「目が大きいのでどうしても入っちゃうんですけど(笑)」と、北村ならではの裏話も飛び出す。

この話を踏まえて振り返ってほしいのが、第1、2話の緋山だ。町工場殺人事件の犯人として被告人になった緋山は、生きる希望を失ったような顔だったが、実はこれにも照明の力が大きく影響している。「接見室や法廷で下を向く緋山には、敢えて光を入れずに、目が死んで見えるよう照明を作っていました。初めて彼の目に光を入れたのは、無罪の判決を言い渡された時。彼の心情を考えて、あの瞬間から目にキャッチを入れるようにしました」と、細かいながら作品の受け取られ方に大きく作用するこだわりを口にした。