半世紀前に導き出された精神鑑定と裁判所の結論

ちょうど半世紀前の1974年、神奈川県で発生した「ピアノ騒音殺人事件」。団地での騒音トラブルがきっかけとなり、3人が殺害された事件だ。

元々「騒音」に敏感だった男は、近所に引っ越してきた被害者一家の立てる物音に対して、神経質に反応するようになっていく。日曜大工の音、ドアを開閉する音…。そして次第にそれらが「自分への嫌がらせを目的としているのではないか」と思い込むようになってゆく。そして被害者一家の弾くピアノの音が、引き金となった。包丁を持ち出して被害者の部屋に侵入した男は、女性と、その子ども2人の合わせて3人を刺殺した。

逮捕後に行われた、当時の精神鑑定では「精神病質者」と認定されたものの、弁護側の主張する心神耗弱は認められず、責任能力があるとされ、一審で死刑の判決が下された。

弁護側は控訴したが、男は「騒音恐怖症に悩んでいることから、刑務所での生活に耐えられない」「無期懲役と死刑ならば死刑がいい」「死刑を免れたとしても、生き続けることに耐えられない」と主張、自ら控訴の取り下げを申し出る。

一方で、複数回に及ぶ精神鑑定の結果、妄想により不安を抱く精神症状「パラノイア」の症状が疑われるようになっていたことから、責任能力が疑問視されるようになる。控訴取り下げの有効性について争いもあったものの、最終的に、男の主張が受け入れられる形で一審の死刑判決が確定した。

なお、アムネスティ・インターナショナルや死刑に反対する弁護士などでつくる団体「フォーラム90」によると、2020年現在も刑は執行されていないとみられている。男は今年95歳となる。