■世界のLNGは2025年まで売り物がない
一方、日本は天然ガスの開発プロジェクト「サハリン2」で揺さぶられている。すでにイギリスのシェルが撤退を表明。日本からは三井物産と三菱商事が権益を持っているが、プーチン大統領が6月30日に署名した大統領令では、参画を続ける場合はロシアが提示する条件への同意が必要としている。
細川昌彦氏(明星大学経営学部教授)
強制的な接収だと言われないように、微妙なやり方をしています。ロシア新会社に対して日本の権益を持っている人たちも参画を続けたければその意向を伝えてこいと、こういう言い方をしていますから、強制的ではないというフリはしている。
まだ新会社も設立しておらず、日本企業が参加するための条件も明らかになっていないが、日本としては引き続き権益を維持したいという方針なのか。
細川昌彦氏
というか権益を維持しないと日本のエネルギー安全保障にかかわるということだと思います。新会社(事業主体)の中で株主としての地位を持つ、これが権益の意味です。もうひとつ、この事業主体と日本の8つの会社が個別の調達契約をしているわけですが、分けて考える必要がある。株主としての地位がないと発言権がなく、調達契約もロシアのいいなりになる。これが個別の契約にも今後影響してくるということだと思います。
権益を持っているからこそ長期的に安い価格で安定的に輸入契約ができる。これが止まればスポットで買わなければならなくなる。北東アジアのLNGのスポット価格を見ると40~50ドルで、高いときには80ドルを超えている。日本の平均LNG輸入価格は長期契約なので、10~20ドルだ。サハリン2からはどれぐらいで買っているのか。
細川昌彦氏
だいたい10ドルぐらいと言われています。権益を持っているので非常に安い価格で安定的に。ほかから調達すればいいのではないかという人もいますが、世界のLNG市場では争奪戦が起こっていて、2025年まではすでに売り切れで売り物がないのです。26年以降でないと長期契約はあり得ないというのが世界のLNG市場なのです。
■今冬は“停電覚悟”?

日本の電源構成を見ると、最大の39%を天然ガスでまかなっており、天然ガスの8.8%をロシアから調達している。「サハリン2」の権益を失った場合、日本にどれだけの影響があるのか?
細川昌彦氏
日本の発電にどれだけ影響あるかというと、電気の供給量の中で3%の予備率をもっていないといけないと言われていますが、この冬はロシアから天然ガスが来なくなると、マイナスになる。停電覚悟です。停電をなんとか逃れようとすれば、スポットで高いものを調達しなくてはならない。そうすると年間2兆円ぐらい上乗せになり、電気料金に跳ね返ってくるという構図だと思います。
冬に向けて電気、ガスをどう確保するのか。大きな課題が横たわったままだ。
(BS-TBS『Bizスクエア』 7月23日放送より)