(ブルームバーグ):米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーシュ議長は、今後の金融政策の方向性を市場に示すフォワードガイダンスを避ける方針を掲げている。議長とともに金融政策の中枢を担う2人も最近、金利の道筋を明示しない姿勢を示した。それでも市場は、2人の発言から政策の手掛かりを読み取った。
ジェファーソンFRB副議長とニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁はそれぞれ講演で、追加利上げを検討する前に経済情勢を見極める時間があるとの認識を示した。これを受け、市場では今月の利上げ観測が後退した。
わずか2日間のうちに相次いだ両氏の発言も、FRBが追加利上げを見送ることを意味するわけではない。当局者はインフレが依然として高過ぎると警戒しており、14日発表の9月消費者物価指数(CPI)が今後の政策判断を大きく左右する可能性がある。
しかし、FRBの動向を注視する市場関係者らは、両氏が講演で発したメッセージは明確だったと指摘する。FRBが9月16日に利上げを行った後、市場は次の利上げを織り込み過ぎていた。
ウィリアムズ総裁が9月29日に講演する前には、短期金融市場が織り込む10月の利上げ確率は70%だった。ジェファーソン副議長が講演を終えた10月1日には、約25%まで低下していた。この間に発表されたインフレ指標が市場予想を下回ったことも、利上げ観測の後退につながった。
ニューヨーク連銀総裁は、金融政策を決める際の常任投票権を持つほか、慣例として連邦公開市場委員会(FOMC)の副議長も務める。FRB議長、副議長とともに政策運営の中枢を担う「トロイカ(3人組)」の一角と長年みなされてきた。
過去には、FRB副議長やニューヨーク連銀総裁の発言が、トロイカ全体の見解を市場に伝えるシグナルと受け止められることもあった。ただ今回は、ジェファーソン氏とウィリアムズ氏が互いに、あるいはウォーシュ氏と講演内容を調整したことを示す証拠はない。
それでも、ゴールドマン・サックス・グループのエコノミストは、ジェファーソン氏とウィリアムズ氏の相次ぐ講演を受け、10月の利上げはないとの見方を一段と強めた。市場では同様の受け止めが広がっている。
エバコアISIのクリシュナ・グーハ氏は顧客向けリポートで「両氏がそろって発したメッセージには相応の重みがあるとみている」と記した。
JPモルガン・チェースの米国担当チーフエコノミスト、マイケル・フェロリ氏は、両氏の講演には市場の利上げ観測を抑える狙いがあったと指摘。「いずれも、会合のたびに利上げを重ねる必要はなく、もう少し間隔を空けることができるとのメッセージだった」と述べた。
フォワードガイダンス
FOMCは9月の会合で、0.25ポイントの利上げを全会一致で決めた。景気全般に加速の兆しが見られ、インフレも高止まりする中、2023年以来の利上げに踏み切った。政策決定会合後に公表した当局者の金利見通しでは、年内あと1回の利上げが見込まれていた。
一方、ウォーシュ議長は、フォワードガイダンスから距離を置いている。金融政策当局者の四半期ごとの金利見通し(ドットプロット)には自身の金利予想を提出せず、公の場でも今後の政策を示唆する発言を避けてきた。その代わり、投資家には経済指標から政策の方向性を読み取るよう促している。
こうした姿勢を支持する声も多い。フォワードガイダンスに批判的な人々は、危機時には有効でも、経済指標が目まぐるしく変化し、政策当局者でさえ景気の先行きを予測しにくい局面では、ほとんど役に立たないと指摘する。
例えば、直近に発表されたインフレと雇用の指標はいずれも市場予想を下回り、追加利上げを急ぐ根拠は薄れた。一方、個人消費は堅調を維持し、4-6月(第2四半期)のGDP確報値が上方修正されるなど、経済成長は加速しているように見える。
デューク大学の経済学教授で、FRBで数十年にわたり当局者に助言してきたエレン・ミード氏は、ジェファーソン氏とウィリアムズ氏の講演が必ずしもフォワードガイダンスに当たるとは言えないとの見方を示す。
ミード氏は「FRBとして通常の対応をしているだけだ」と指摘。「次の金利変更をあらかじめ示すフォワードガイダンスと、『多くのデータを確認し、時間をかけて判断する』と伝えることには違いがある。微妙だが、重要な違いだ」と述べた。
元FRB金融政策局長で、現在はエール大学経営大学院教授のウィリアム・イングリッシュ氏も、2人が講演内容を事前に調整していたとはみていない。
「両氏はそれぞれ、自分が適切だと考えることを講演で語り、経済や金融政策について見解を示しただけだ」と語った。
先行き明言せず
2人が講演したのと同じ週、ノースカロライナ州アッシュビルの会議にそろって出席した3人の地区連銀総裁も、政策の先行きについて手掛かりを示すことを避けた。リッチモンド連銀のバーキン総裁、ボストン連銀のコリンズ総裁、カンザスシティー連銀のシュミッド総裁はそれぞれ、年内残り2回のFOMC会合での政策対応を問われたが、明言を避け、今後発表される経済指標を見極める考えを示した。
一方、ウィリアムズ氏とジェファーソン氏に続き、ボウマンFRB副議長(金融監督担当)は「現時点では追加措置を急ぐ必要があるとは考えていない」と述べた。
こうした一連の発言を受け、市場が織り込む年内の米政策金利の見通しは大きく修正された。
クロックタワー・グループのチーフマクロストラテジストで、マイラン元FRB理事の顧問を務めたエリック・ウォーラースタイン氏は、ウィリアムズ氏とジェファーソン氏の相次ぐ発言について、市場の見方を軌道修正しようとする明確な試みだったと指摘した。
「当局者はこれまでと同じことをしている。市場の織り込みが当局者の認識とずれた時には、市場に語りかけ、修正を促すということだ」と語った。
原題:Warsh’s Top Fed Deputies Show ‘Forward Guidance’ Isn’t Dead(抜粋)
--取材協力:Catarina Saraiva、Andrew Ackerman.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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