モーターメーカーのニデックが再び厳しい状況に置かれている。28日には大規模な減損処理を検討していることを新たに公表して株価はストップ安となった。同社は合併・買収(M&A)を通じて急成長した会社だが、会計不正問題などで株価が低迷する中、逆に買収されるリスクが高まっている。

ニデック株は29日も続落、ブルームバーグのデータによると、足元の時価総額は約2兆7000億円と2021年2月に付けた最高値の時点(約9兆円)から大きく落ち込んだ。ニデックが不正会計を巡って1兆円規模の減損損失を26年3月期に修正計上する方針で、25日に開いた臨時取締役会で岸田光哉社長の解任を決議したとの報道が引き金となった。

同社はこれらについて現時点で決定した事実はないとしているが、役員変更や大規模な減損処理を検討していることは認めた。短期成長主義を背景とした不正の爪痕は深く、膿(うみ)を出し切り、再出発につなげられるかどうかは現時点で不透明だ。

英調査会社ペラム・スミザーズ・アソシエイツのアナリスト、ジュリー・ブート氏は、「企業の状況が厳しいほど、買収対象としての魅力は高まる。経営陣への信頼も大きく損なわれているため、買収提案を行うには絶好のタイミングだ」と指摘する。

会計不正があったものの、ニデックの技術自体は魅力的だと感じる企業は少なくないとの指摘もあがる。ブート氏はAIデータセンター関連など注力するに値する成長事業を抱えていると言及。しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹シニアファンドマネジャーは、技術力があり、スピンドルモーターなど高いシェアを誇る製品を手掛けており、海外投資家には魅力的に映るところがあると指摘する。

改善に厳しい目

アイザワ証券投資顧問部の三井郁男ファンドマネジャーも、会社が「クリーンな形に変わるのが前提」とした上で、技術やシェアなどに成長性を見いだす投資家はいるだろうと述べた。

ニデックは創業者の永守重信氏の下でM&Aで企業規模を拡大してきた。「買収巧者」とほめそやされてきた同社だが株価の低迷で、皮肉にも一転して買収対象になる可能性が出ている。既にアクティビスト(物言う株主)として知られる香港のファンド、オアシス・マネジメントが同社の大株主となり、取締役候補を提案するなど経営への関与を強めていることが判明している。

一方で不正の影響額が確定しない限り、同社の企業価値が判断しづらく、「手を出しにくいのではないか」とも藤原氏は述べた。また、成果に厳しいニデックの社風を作り上げ、第三者委員会の調査では不正会計で最も責めを負うべき存在とも指摘された永守氏は依然として同社の筆頭株主でもある。同氏が議決権の行使にどんな考えを持っているかは不明で外部の投資家が手を出しづらい側面もある。

Photographer: Fred Mery/Bloomberg

ニデックには解決すべき大きな問題が控えている。上場維持の手続きだ。

同社は昨年、不正会計問題を受け東京証券取引所から特別注意銘柄に指定された。上場廃止となる可能性も出ており、10月までに指定解除に必要な内部管理体制確認書の提出を目指している。新たな減損の計上がこの手続きに影響するかどうかが当面の焦点となる。

ブルームバーグ・インテリジェンスの本間靖健氏は大規模な決算修正が生じれば、改善策が機能しているかについて市場から改めて厳しい目を向けられるだろうと指摘。

特別注意銘柄の指定解除には内部管理体制などが適切に整備・運用されていることが求められるとし、それらが認められない場合には「上場廃止となる可能性がある」と述べた。

本間氏は報道された減損の規模は、過去の日本企業と比較しても「極めて大規模な決算修正」となる可能性も指摘する。

不正会計を調べていたニデックの第三者委員会は3月、減損の検討対象となるのれんや固定資産の額は、主に車載事業で約2500億円規模になるとしていた。

ダイヤモンド・オンラインの報道では、不正会計の修正などに関連して3000億円規模の減損損失を計上するほか、今後改革する事業などでのれんなどの資産性を厳しく見積もったことで、家電事業などを中心に6000億円規模の減損損失を計上する見込みとしていた。

企業会計・監査に詳しい青山学院大学の八田進二名誉教授は不正会計を巡るニデックの情報開示への姿勢について「なんとなく後手後手の対応になっているように見える」と指摘。そうした状況が続くと株主の信頼を失い、「その間は株価も乱高下するだろう」との見方を示した。

多額の減損損失の計上が企業の命運を左右した例もある。東芝は17年に米原子力子会社ウェスチングハウスののれんについて7125億円の減損を計上し、債務超過に陥った。その後経営の混乱が続き、国内投資ファンドが主導する企業連合に買収されたことで上場廃止となった

ただ、ニデックの決算短信によれば、25年9月末時点での親会社の所有者に帰属する純資産は1兆7594億円。日本取引所グループは、純資産の面での上場維持基準として債務超過ではないことを条件としており、1兆円の減損を計上したとしてもただちに債務超過になる水準にはない。

岸田社長は今月の会見で9月30日に延期されていた前期の決算や有価証券報告書の発表を行うと言明。品質不適切問題による影響額に加え、過去5年分の訂正決算も公表する方針を明らかにしていた。11月の半期報告書から通常のオペレーションに戻したい意向を示し、年末にかけて30年度までの中期経営計画のアップデートも予定していると述べていた。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の金子良介シニア・クレジットアナリストは28日付のリポートで、報道が事実なら減損対象が従来公表より広範な事業・資産に及んでいる可能性を示しているとし、減損規模だけでなく、有報を期限内に提出できるか、過年度決算の訂正が完了するか、どのような監査意見が付されるかなども注目されるとした。

--取材協力:我妻綾.

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