長年にわたるインフレと混乱を経て安定を模索するベネズエラで、経済を正式に「ドル化」する構想が政治の主流に浮上している。

野党のアントニオ・エカリ議員は、米国の経済学者スティーブ・ハンケ氏と共に、ドルをベネズエラの通貨として正式に採用する法案の策定を進めている。

ベネズエラではすでにドルが非公式に広く使われているが、これを法定通貨とすることになれば、はるかに重大な一歩となる。ブルームバーグ・ニュース向けにアトラスインテルが5月に実施した調査によると、ベネズエラ国民の半数超がこの構想を支持している。

Photographer: Carlos Becerra/Bloomberg

ドル化が何を意味し、どのように実施され得るのか、また過去に導入した国々からベネズエラがどのような教訓を得られるのかを解説する。

ベネズエラの正式なドル化とは何を意味するのか

正式なドル化とは、米国の通貨をベネズエラの公式通貨として採用し、日常の取引だけでなく金融システム全体で、ベネズエラ通貨ボリバルにドルが取って代わることを意味する。ボリバル建ての現金や預金、債務、契約、賃金は、公式為替レートでドルに換算する必要がある。

ベネズエラではどの程度ドル化が進んでいるのか

ベネズエラでは、ハイパーインフレを受けて企業や家計が2019年ごろからドルの利用に傾いたことで、経済の一部でドル化が進んでいる。ドルは価格表示や貯蓄に広く使われているが、政府の財政はボリバル建てで、中央銀行も引き続きボリバルを発行している。

ベネズエラの正式なドル化を巡る現状は

エカリ議員は法案を議会に提出する計画だ。ただ、議会のロドリゲス議長はすでにこの構想を否定している。ボリバルをベネズエラの通貨単位と定め、金融政策の権限を中銀に与える憲法の規定を理由に挙げた。ベネズエラの他の当局者もここ数週間、公にボリバルを擁護している。

ドル化の実現性は最終的に米国の立場に左右されそうだ。米政府は1月に当時のマドゥロ大統領を拘束して以降、ロドリゲス暫定大統領の政権運営に積極的に関与しており、石油収入や支出の一部について監督権を主張するなどしている。

ベッセント米財務長官はベネズエラでドルの役割を拡大することを提唱している。6月のインタビューで「ベネズエラはドル建てで請求するようになる」と述べ、ドルがベネズエラ貿易の「中心」になるとの見通しを示した。米政権はベネズエラを全面的にドル化したり、法定通貨としてのボリバルをドルに置き換えたりする計画を公には発表していない。

なぜベネズエラはドル化の候補とみられているのか

数十年にわたる高インフレに加え、2017年後半から2021年前半にかけてのハイパーインフレによって、ボリバルへの信認は損なわれた。外貨を自由に売買することへの規制も信認低下につながった。

支持派は、正式なドル化によってインフレへのエクスポージャーや、対ドルでのボリバル下落リスクが軽減され、ベネズエラの通貨制度への信頼が高まると主張している。

また、政府が通貨発行によって財政赤字を穴埋めすることを防げるため、ドル化は信認向上につながると、高等行政研究所のペドロ・パルマ名誉教授(経済学)はウェブキャストで述べた。

正式なドル化の支持派は、ドルを公式に採用すれば、二つの通貨が併存することで生じている摩擦も解消できると主張している。

ベネズエラ暫定当局と米国が最近結んだ石油合意により、米国はベネズエラ産原油の主要な買い手として復帰する見込みだ。

ベネズエラの経済学者で米デンバー大学の国際関係学教授を務めるフランシスコ・ロドリゲス氏は、米国との貿易拡大は、ベネズエラが主要貿易相手国の通貨を採用する合理性を高めると指摘した。ただ、同氏は石油合意そのものには批判的な立場を維持している。

ドル化にはどのようなリスクがあるのか

ベネズエラは金融政策と為替相場に対するコントロールを手放すことになり、リセッション(景気後退)や銀行危機、外的ショックへの対応力が制約される。その代わり、賃金低下や失業率上昇、財政引き締めを通じて、経済がこうしたショックを吸収しなければならなくなる。

国内で利用できるドルは、輸出や投資、送金、対外借り入れによるドル流入に一段と依存することになる。国際金融へのアクセスが引き続き限られれば、これが制約となる可能性もある。

ドル化は財政規律を保証するものではなく、ベネズエラが抱えるより広範な構造問題を解決するものでもない。経済学者オマール・サンブラノ氏は、通貨管理が不要となっても、政府が巨額の財政赤字を計上し、持続不可能な債務を積み上げ、デフォルト(債務不履行)に陥ることがあり得ると論じている。

また、ドルは物価安定に寄与する可能性があるものの、それだけで石油生産を増やしたり、クレジット市場を立て直したり、投資を呼び込んだりすることはできない。批判派は、ベネズエラは金融政策へのコントロールを完全には手放さないまま、すでにドル化による恩恵の多くにあずかっていると主張する。

ドル化はどのように実施されるのか

ドル化の実施には、統一為替レートでボリバルをドルに交換するとともに、預金や融資、賃金、政府債務をどのように扱うかを決める必要がある。

換算レートの設定は極めて重要だ。ボリバルの価値を高く設定し過ぎれば、経済が割高になったりドル不足に陥ったりする恐れがある一方、低く設定し過ぎれば、賃金や貯蓄などボリバル建て資産の価値を損なう可能性がある。

もう一つの重要な問題は、ベネズエラがどれだけのドルを必要とするかだ。これは当局が何をドルに交換すると約束するかによって異なる。デンバー大のロドリゲス教授は、約25億ドル(約3900億円)と推計されるマネタリーベースは十分に小さく、既存の外貨準備で賄えると主張する。

一方、米州開発銀行の元エコノミスト、グスタボ・ガルシア氏は、全面的なドル化には銀行預金を含むより広範な金融債務をカバーできるだけのドルが必要となり、実施のハードルははるかに高くなると述べた。

ベネズエラ経済科学アカデミーも、ドル化を成功させるための経済・制度上の条件として、法定通貨を規定する法律・憲法上の枠組みを改正または廃止する必要性を挙げている。

ベネズエラ中銀にはどのような役割が残るのか

中銀の役割は大幅に制約される。ボリバルの発行や独自の金融政策の運営、従来の意味での為替相場の管理はできなくなる。

それでも、外貨準備の管理や銀行監督、金融リスクの監視、限定的な流動性支援は引き続き担うことができる。ただ、通貨を発行できなければ、最後の貸し手としての機能は大幅に弱まる。

このため、米連邦準備制度理事会(FRB)との取り決めや、他国または国際的な銀行機関と共同で設ける準備資金プールなどを通じ、緊急時にドルを確保できる仕組みが特に重要になる。

エクアドルやエルサルバドルなどドル化した国々は中銀を存続させているが、その役割は自国通貨を発行する国の中銀に比べてはるかに限定されている。

ベネズエラは他国からどのような教訓を得られるのか

銀行・通貨危機を受け、2000年に自国通貨を放棄し、法定通貨をドルとしたエクアドルの例は、ドル化が経済の安定化につながり、政治的にも長く定着し得ることを示している。ただ、財政規律を保証するものではなかった。

サンブラノ氏は、エクアドルでその後生じた財政問題を、より強固な財政ルールと制度が依然として必要であることの証左として挙げている。

エルサルバドルの例も、ドルの採用が国内産業の強化に自動的につながるわけではないことを示している。ドル化は金利の低下と、すでに低水準だったインフレの一段の安定に寄与したが、その後は投資低迷や競争力を巡る圧力を背景に、低成長と輸出不振が何年も続いた。

自国通貨を放棄しなくてもハイパーインフレを克服し、安定を取り戻せることを示したのが、ペルーとブラジルだ。両国はより包括的な安定化策を活用した後、インフレ目標を導入するとともに、物価安定の維持に向けて金融・財政制度を強化した。

チリとコロンビアも同様に、中銀の独立性確保やインフレ目標の導入、より柔軟な為替相場制度への移行を進め、自国通貨を放棄することなく不安定な局面を脱した。

移行には大きな政治的代償を伴う可能性もある。エクアドルでは2000年、ドル化発表から2週間足らずで、より広範な経済混乱のさなかに大統領が失脚した。2001年にドルを導入したエルサルバドルでは抗議活動が起き、価格をドル換算することで日常生活のコストが上昇しているとの不満が広がった。

原題:What Adopting the US Dollar Would Mean for Venezuela: Explainer(抜粋)

--取材協力:Mie Dahl、Nicolle Yapur.

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