(ブルームバーグ):サウジアラビアと事実上の最高指導者であるムハンマド皇太子は、米国とイランの戦争によって危機的な局面を迎えている。
戦争開始から間もなくは、イランによる米国やイスラエルへの報復攻撃の大部分を免れ、ホルムズ海峡を迂回(うかい)する石油パイプラインを活用できたことで、原油高の恩恵すら受けていた。
しかし今月に入り、イエメンの親イラン武装組織フーシ派がほぼ連日サウジを攻撃し始め、状況は一変した。フーシ派はイエメンで制圧地域を拡大し、紅海南部とアデン湾を結ぶバベルマンデブ海峡への支配も強めている。
一方、イラクの親イラン民兵によるドローン攻撃で、サウジは先週、紅海の港に原油を運ぶ東西パイプラインの閉鎖を余儀なくされた。イラン戦争によりホルムズ海峡の通航が滞る中、同パイプラインを経由する紅海ルートは重要な代替手段となってきた。
戦闘の影響でサウジの原油生産はすでに数十年ぶりの低水準に落ち込んでいる。数兆ドル規模に上る経済の多角化計画にも支障が出る恐れがある。リヤドでは数週間後、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)やゴールドマン・サックス・グループのデービッド・ソロモンCEOらが参加を予定する大型の投資会議も控えている。

英当局は、東西パイプラインの大部分が6週間にわたり稼働停止となりかねないと懸念していると、ブルームバーグが14日に報じた。そうなれば世界の燃料価格が押し上げられ、インフレ圧力が強まる可能性が高いと、欧州当局者らは話している。
サウジにとっては、輸出収入が数百億ドル規模で失われる恐れがある。
中東グローバル問題評議会のシニアフェロー、タリク・ユセフ氏は、約10年にわたり事実上サウジを率いてきたムハンマド皇太子について、「サウジは皇太子が実権を握って以降、かつてないほど厳しい状況に直面している」と指摘。「経済的圧力の高まりと地政学リスクの増大が重なり、強い危機感が生じているはずだ。重大な決断を迫られている」と述べた。
フーシ派は7月、サウジの海上輸送を封鎖すると宣言し、イラン戦争で第2の戦線を開いた。同月にサウジへの攻撃を数回行ったものの、その後は大規模な交戦を避けていた。ところが約10日前から、エネルギー施設や西部の都市への攻撃を強めている。
最近の攻撃では80人余りが負傷した。サウジ当局は15日朝、国内第2の都市ジッダのほか、イスラム教の聖地メッカ、さらにムハンマド皇太子が観光振興の要と位置付ける古代の砂漠オアシス、アルウラに防空警報を発令した。
もっとも、サウジ経済にはなお一定の余力がある。政府系ファンドの資産と外貨準備は合わせて約1兆4000億ドル(約217兆円)に上る。国際市場での資金調達も今年は順調で、債券発行には旺盛な需要が集まった。
それでも、ブルームバーグの指数によると、サウジのドル建て債は今月、新興国市場で最も下落率の大きい部類に入っている。
サウジ政府はコメント要請に直ちには応じなかった。

支援取り付けがカギ
ムハンマド皇太子(41)はこれまでも危機に直面してきた。サウジ工作員によるジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏殺害後、多くの各国首脳から冷遇されたこともある。
今回の危機では、フーシ派への対抗で同盟国の支援をどこまで取り付けられるかが焦点となっており、皇太子の手腕が試される。これまでにトランプ米大統領とバーナム英首相に軍事支援の強化を求めたが、両首脳とも応じる意向は示していない。トランプ氏は米国内で不人気なイラン戦争の幕引きを模索しており、11月の中間選挙で共和党に悪影響が及ぶことも懸念している。
皇太子は15日にエジプトを訪問し、シシ大統領と会談した。シシ氏はアラブ諸国で最大級の軍を率いる。両首脳は、紅海の航行の自由確保を含め、協調を強化する必要性について協議した。
サウジ政府はフーシ派に単独で対応することには消極的で、大規模な軍事作戦に踏み切る前に他国の関与を確保したい考えだ。事情に詳しい関係者2人が匿名を条件に明らかにした。
フーシ派は先週、紅海沿岸の港湾都市モカとバベルマンデブ海峡近くの複数の島を制圧した。支配地域の拡大で、フーシ派はエネルギー海上輸送の要衝への影響力をさらに強めることになる。
こうした情勢に加え、米国とイランの和平交渉再開が見通せないこともあり、北海ブレント原油は1バレル=108ドルまで上昇。米国のディーゼル小売価格も過去最高値を付け、国債利回りも世界的に上昇している。
ムハンマド皇太子がフーシ派への攻撃を強化したとしても、成功する保証はない。フーシ派は2014年に首都サヌアを制圧し、今なお続くイエメン内戦を引き起こした。その後もサウジ、アラブ首長国連邦(UAE)、米国、英国、イスラエルなど複数国による爆撃に耐えてきた。
西欧諸国の軍による分析では、サウジと同国が支援するイエメン政府軍はフーシ派の進撃への対応に苦戦しており、モカを奪還できる可能性は低いとみられている。
クウェート大学の政治学助教授で、ハーバード大学中東イニシアチブの研究員でもあるハマド・アルスナイヤン氏は、サウジは「地政学的に極めて難しい立場」にあると指摘。「今回の出来事は、地域の勢力均衡を塗り替えつつあるイラン戦争の経済的な余波から、サウジも逃れられないという現実を改めて突き付けている」と述べた。
原題:Houthi Strikes, Pipeline Closure Mark Crisis for MBS and Saudis(抜粋)
(第2段落に情報を追加して更新します)
--取材協力:Alberto Nardelli、Tom Fevrier、John Bowker.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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