ギルティ消費とは何か
コンビニのレジ前で、ついもう一つ甘いものをカゴに入れてしまう。糖度の高い、濃厚な甘さをうたった炭酸飲料に手が伸びる。深夜、背脂たっぷりのラーメンをすする。
「体に良くなさそうだけど、まあいいか」
そんな小さな後ろめたさを伴う消費が、このところ目につくようになりました。いわゆる「ギルティ消費」です。
ギルティ消費とは、本当は控えたほうが良いと分かっているのに、ついつい手が伸びてしまう、そんなちょっとした罪深さを、あえて楽しむ消費のことです。
大事なのは、健康を害するほど深刻なものではなく、「今日はいいよね」と自分に許可を出し、笑って話せる範囲の小さなぜいたくだということです。最近は「背徳メシ」と呼ばれることも多く、「ダメだと分かっているからこそ、おいしい」という感覚まで含めて味わうところに、ギルティ消費の特徴があります。
実際、こうした感覚を前面に打ち出す動きは、企業のマーケティングにも広がっています。ファミリーマートは2024年、背脂やにんにく、チーズなど食欲を刺激する食材を使った商品を「背徳のコンビニ飯」と銘打って展開しました。さらに2025年には、秋の月見商戦に合わせて「月見背徳メシ」を発売しています。
「背徳」という言葉を隠すどころか、商品名や販促の前面に押し出す動きは、後ろめたさそのものが商品の魅力になっていることを象徴しています。
こうした動きは、企業側だけに見られるものではありません。2026年5月のぐるなびの調査によれば、背徳グルメの喫食頻度は、「よくある」が1割、「たまにある」が4割強で、両者を合わせた割合は2022年の調査から10ポイント増加し、5割を超えています。
商品展開だけでなく、消費者側でも、背徳感を含めて食を楽しむ傾向が広がっていることがうかがえます。
背景にあるのは「自己管理社会」
ギルティ消費が広がる背景は、大きく三つの側面から捉えることができます。
一つ目は、健康志向の高まりに対する反動です。健康やダイエットへの関心が高まり、日ごろ節制している人が増えているからこそ、「今日は特別」と自分に許可を出して楽しみたいという気持ちも、同時に生まれているのではないでしょうか。
二つ目は、健康に限らず、幅広い場面で自己管理が求められる社会になったことです。仕事では生産性を高め、生活では健康や睡眠、運動を管理する。SNSを見れば、「きちんと管理している人」の情報がたくさん流れてきます。日々をより良く整えることが重視される中で、ときには「今日は何も考えずに食べたい」という気持ちが生まれるのも、自然なことかもしれません。
三つ目は、コロナ禍を経て、セルフケアという考え方が身近になるとともに、多様化したことです。以前はストレスが溜まると、カラオケで思い切り歌ったり、飲みに行って少し羽目を外したりと、パーッと発散するイメージがありました。一方、今は数百円のスイーツや背徳メシを楽しみ、欲望を少しだけ解放することで「じわじわ心をほぐす」。そんな手軽なセルフケアが受け入れられている面もありそうです。
物価高の中で広がる「小さなぜいたく」
この傾向は、物価高が長引く家計の状況とも無縁ではないでしょう。
2022年頃から物価上昇が続く中で、実質賃金は長らく前年を下回る状況が続きました。2026年に入ってからは、賃金の上昇に加えて、消費者物価の上昇率がいったん鈍化したことで、実質賃金はプラスで推移するようになりました。
しかし、イラン情勢を受けた原材料費や物流費などの上昇が、食品や日用品の価格に本格的に波及するのは、まさにこれからです。こうした中、大きな買い物や海外旅行といった「わかりやすいぜいたく」には、慎重にならざるを得ない家計が多いのが実情です。
実際に消費者マインドを見ると、イラン情勢が緊迫化して以降、消費者態度指数は低水準で推移しています。構成要素では、特に「耐久消費財の買い時判断」や「暮らし向き」が全体を押し下げています。
一方、数百円から千円台で完結する「小さなぜいたく」であれば、日々の暮らしに無理なく組み込めます。大きな支出には慎重になる一方で、手の届く範囲の楽しみは残しておきたい。ギルティ消費の広がりは、節約志向の高まりと矛盾するようでいて、実は表裏一体の現象と言えるのではないでしょうか。
