中国では、高齢者の通院の付き添い、受付や検査、医師とのコミュニケーション、会計・薬の受け取りなどを専門的にサポートする職業 ―「陪診師」に注目が集まっている。

上海市は2026年5月、高齢者向けの病院付き添いサービスの促進に関する政策を発表し、7月1日から実施している。これは、従来家族が担ってきた医療支援(家族内ケア)の一部を、専門的な介護・生活支援サービスとして社会化する動きでもある。

上海市の取り組みー「陪診」を高齢者サービスとして制度化へ

上海市の実施案では、2026年中に各区でサービス提供のためのインフラを構築し、サービスを提供する事業者と陪診師を育成するとしている。また、2030年末までに市全体での十分なサービス供給を実現、標準化することを目標としている。

利用対象は60歳以上の高齢者であり、サービスは単に病院まで「付き添う」だけではない。送り迎え・病院内での移動サポート、診察への同行、各種手続きの代行、医師とのコミュニケーション、心理的なサポート、医師の指示に基づく服薬のリマインドなど多岐にわたる。

さらに、上海市はサービス事業者には原則5人以上の専門職員を配置することを求め、料金やサービス内容の明示、契約の締結、個人情報・プライバシーの保護なども規定した。上海市は、陪診師について、必要な知識・技能や能力水準を明確にし、それを試験・評価できる公的な職業技能評価の対象にしていく取り組みを進めており、介護職員、看護師、ソーシャルワーカー、医療・リハビリ・薬剤師など専門人材の参加を促している。

上海市はこれに先立って2025年に付き添いサービスの試行を開始しており、陪診師育成のための研修が実施されていた。2026年の全面推進策は、この試行を全市的な制度へと拡大するものである。

なぜ中国で「陪診師」が必要なのか

日本にも中国の陪診師に類似した有償の通院付き添いサービスが存在する。介護保険の通院介助に加え、介護保険では対応しにくい院内の付き添いや診察への同席、家族への受診結果の報告などを行う有償サービスも提供されている。したがって、病院への付き添いそのものは中国固有のサービスではない。では、なぜ中国では、単なる有償サービスにとどまらず、陪診師という独立した職業が生まれたのか。

背景には、まず、中国の急速な高齢化と家族構造の変化がある。中国では高齢者が増加する一方、少子化によって子どもの数が減少している。さらに、若年世代の都市への移動などによって、親と子どもが同居しないケースも増えている。その結果、「高齢の親が病院に行く際、子どもが仕事を休んで付き添う」という従来の家族による支援が難しくなっている。中国社会福祉・高齢者サービス協会が発表した「付き添いサービス発展研究報告(2025)」によると、地域在住高齢者の88.5%が、受診時に家族から適時に付き添いを受けられない状況に直面しているという。

これに加えて、中国では、医療機関を受診する際の手続きや診療プロセスそのものが、高齢者にとって大きな心理的負担となっている。例えば、日本では、医療機関を受診する際、患者自身が受付、診察、検査、会計などを行う必要はあるものの、院内の案内表示や職員による誘導やサポートなど、患者を一連の診療プロセスに沿って案内する仕組みが整えられている。

一方、中国で医療機関を受診する際は、病院の等級によって公的医療保険の自己負担割合が異なるので、費用面・診療の質・待ち時間等を総合的に考えてどの病院にかかるかを患者自身が決める必要がある。また、医療機関では、予約、受付、診察、検査、支払い、検査結果の確認、再診、薬の受け取りなど、複数の場面で患者自身が把握・確認し、その都度対応する必要もある。例えば、医師から指示を受けた複数の検査について、それぞれの検査ごとに、患者自身が受付、支払い、結果の受け取りをする必要がある場合もある。さらに、大病院を中心にデジタル化が進んでおり、一連の手続きがスマートフォンやデジタル機器を介して行われることで、それらに不慣れな高齢者には新たな負担が生じている。

このように、中国の高齢者にとって「病院に行く」という行為は、単に医師の診察を受けることだけを意味しない。病気による身体的・心理的負担に加え、こうした医療を受けるプロセスにおける自己管理負担が重なることが、受診時のストレスを高める要因となる。家族による付き添いが難しくなる一方で、高齢者自身が担う医療アクセス上の負担は大きくなっており、ここに、患者に寄り添い、手続きを補助し、医療機関と患者をつなぐといった全プロセスを任せられる陪診師の必要性が生まれている。