タカ派だが、利上げを約束したわけではない
ウォーシュ議長のスタンスは、体重管理(ダイエット)に例えると分かりやすいかもしれない。
ウォーシュ議長のインフレ率の上振れ具合への対応を「目標水準を上回った体重」への対応に例えると、以下と言えよう。第一に、現在は少し太り気味であることは認識している。第二に、とはいえ現状では、それほど深刻な状況とは見ておらず、今日からダイエットを始めるべき段階とまでは考えていない。第三に、しかし、もし体重がさらに増えてしまうなら、必ずダイエットを開始して元の状態へ戻すことは強く主張している。
今回の講演で強調され、コミュニケーションが強化されたのは、この第三の部分だったと言える。前述したように、規律(discipline)へのコミットを強め、2%の物価目標は断固として守るという姿勢を市場に改めて示したのである。しかし、それは具体的な行動を約束したことと同義ではない。
実は筆者自身も最近やや体重の増え方を気にしている。「このスーツが着られなくなるとまずいので、そうならないようにはする」と家族に説明しているのだが、どうもあまり信頼されていないようだ。
筆者としては、第三の点については明確な姿勢を示しているつもりである。大幅な体重増加は許容しないという規律は維持されている。しかし、家族からは、そんなに気にしているなら今日からダイエットを始めたらどうか(なぜ第二について具体的な議論をしないのか)、という心の声が聞こえてくる気もする。
ウォーシュ議長もある意味では似た立場にある。インフレ率を2%目標へ戻す必要性を何度も説明している一方で、実際に利上げに踏み切るかどうかは今後の経済指標次第だからである。徐々に「規律」へのコミットに対する市場の反応は鈍くなり、具体的な行動(「決定」)へのコミットを求めるようになるだろう。そのような状況になると、(筆者が家族からの信頼を得られていないように)ウォーシュ議長はそれほどタカ派ではないという見方が強まる可能性がある。
市場ではしばしば「タカ派か、ハト派か」という二項対立で政策判断が議論される。しかし本来重要なのは、政策当局者がどのような条件のもとで行動するのかという反応関数である。今回の講演は方向性としては明らかにタカ派であったが、実際に利上げへ動くかどうかは今後のデータ次第であるという点は、それほど大きく変化していないと考えるべきだろう。