28日の米金融市場で、円は対ドルで1ドル=160円台に下落し、日米が協調介入を実施した7月31日以来の安値を更新した。ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長の講演がタカ派的な内容と受け止められ、円は下げ幅を拡大した。

円は一時、ニューヨーク前日比0.5%安の160円20銭を付けた。ウォーシュ議長がインフレ率をFRB目標の2%に戻すための決意を示したと受け止められ、ドルが上昇した。市場関係者は、当局が円安阻止に動く兆候を見極めようと、円相場の動向を注意深く見守っている。

ウォーシュ氏はワイオミング州ジャクソンホールでカンザスシティー連銀が主催する年次経済シンポジウムで講演を行い、「私の判断基準はこうだ。基調的なインフレが明確かつ十分な速さで目標に向かっていると確信できなければならない。そうでなければ、われわれにはやるべきことがある。それがわれわれの仕事だ」と述べた。

ヘッジファンドのウィンショア・キャピタル・パートナーズでポートフォリオマネジャーを務めるシイエン・ツァオ氏は、インフレ引き下げに「一定の緊急性があるとウォーシュ氏は示唆した」と指摘した。

アメリベット・セキュリティーズの米金利取引・戦略責任者、グレゴリー・ファラネロ氏は「議長の発言は、金融引き締めに動く可能性が高いことを示唆しているように聞こえる」と指摘。「講演ではバランスの取れた姿勢を示そうとしたが、金利を引き上げる可能性が高い」と語った。

三井住友信託銀行ニューヨークグローバルマーケッツ部の山本威調査役は「今週は米個人消費支出(PCE)統計、米国内総生産(GDP)改定値でもインフレ高止まりと米経済の堅調さが確認でき、そこにタカ派なウォーシュ議長の講演が続いた」と、この日の米金利上昇とドル高の背景を指摘。

その上で、「ウォーシュ氏は引き締め余地があるといった認識を示したが、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見での発言が利上げに距離を置いたと捉えられたため、あえてタカ派な姿勢を市場に織り込ませた可能性もある。9月会合ですぐに利上げをする必要があると本人が考えているかは定かでない」と分析した。

円は7月末の協調介入後に一時大きく上昇したが、155円を突破することはできず、その後は売り圧力にさらされている。

ベッセント米財務長官は、高水準にある米長期債利回りを抑えようと、米国債買い戻し額を拡大する措置を発表したが、円安の基調に変化はない。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)の外為ストラテジスト、アレックス・コーエン氏は「円相場が対ドルで心理的に重要な160円に達したことで、為替介入への警戒感は必然的に高まるだろう」と指摘。

その上で、「ドルと米金利が今回の動きの主因であることを踏まえると、当局はもう少し辛抱強く様子を見る可能性が高い」と述べた。

足元の円安は、海外との大幅な金利差や日本の巨額の政府債務に加え、中東情勢悪化に伴う原油高への投資家の懸念を反映しており、その影響は世界の市場にも及んでいる。日米通貨当局は必要であれば再び介入する用意があると警告しているが、円安が反転する兆しは見られない。

ステート・ストリート・インベストメント・マネジメントの駱正彦チーフ債券ストラテジストは「160円台はもはやバリュエーション上の水準ではない。政策上の水準になりつつある。日米当局は事実上、160円台半ばに政治的な一線を引いている」と論じ、「早ければ9月にあるかもしれない日銀の利上げの前に、再び為替介入が行われる可能性も排除できない」と語った。

日銀は来月、金融政策決定会合を開く。市場は同会合での利上げを約80%織り込んでいる。

BNYのシニアストラテジスト、ジェフリー・ユー氏は、日銀の会合が近づいていることから、日本当局は当面、為替介入を見送るとの見方を示した。「為替市場を安定させたいのであれば、日本当局は政策面で具体的な行動を示す必要がある」と述べた。

マネックスの為替トレーダー、アンドリュー・ハズレット氏は「日本当局がこの1カ月に実施した過去最大規模の為替介入も、円安の根本的な要因を変えるのに、ほとんど効果がなかった」と指摘。

「来月の金融政策決定会合での利上げは第一歩となるだろうが、円安に歯止めをかけるには、他の主要国との金利差を大幅に縮小する必要がある」と述べた。

米国債

米国債相場は下落(利回り上昇)。短期債利回りが大幅に上昇した。ウォーシュ議長がインフレ率をFRBの目標に向けて押し下げる姿勢を示したことを受け、利上げ観測が強まり、長期債相場は安定した。

2年債利回りは一時12ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇し、4.35%を付けた。低下していた30年債利回りは上昇に転じたが、2bpの上昇にとどまった。

カタリスト・ファンズのラリー・ホルゼンセイラー氏は「ウォーシュ氏は信頼感の回復に成功したと言える」と指摘。「インフレと、それをFRBの2%目標に沿った水準へ戻すことに非常に注力している姿勢が伝わった。市場はまさにFRBが望む通りに反応しているようだ」と述べた。

キャピタル・エコノミクスは講演について、前回の記者会見と比べてはるかに明確で、タカ派的なメッセージだったと分析した。利上げが確実になったわけではないものの、景気が引き続き堅調で、インフレがやや高止まりする場合には、少なくとも利上げを支持する姿勢を示したとの見方だ。

ウォーシュ氏の発言を受け、短期金融市場では9月FOMCでの利上げ織り込みが50%超に上昇した。

エバコアのクリシュナ・グーハ氏は「今後発表されるデータは、さらに幾分か段階的な改善を示す可能性が高いとみている。ウォーシュ氏もそうなることを期待しているのではないだろうか」と指摘。「従って現時点では、9月に利上げが実施される可能性が高いとの見方に傾くのは控え、五分五分に近いとみている」と述べた。

MUFGセキュリティーズの米マクロ戦略責任者、ジョージ・ゴンカルベス氏は今後の様子を見たいとし、「強めの発言をしても、今後の会合で利上げを見送るのであれば、結局これまでと同じだ」と述べた。

株式

主要株価指数は反落した。S&P500種株価指数は午前中は上昇していたが、ウォーシュ議長のタカ派的な講演を受けて年内の利上げ観測が強まり、午後に入って下げに転じた。

ハイテク株が重しとなった。フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は全構成銘柄が下落し、3.5%安で引けた。前日に大幅に上げたエヌビディアが4.6%安と下げを主導した。ナスダック100指数は0.7%安。

原油

原油相場は小幅下落。週間ベースでも下げた。イラン戦争の先行きは依然として不透明だが、ホルムズ海峡で日量数百万バレルの原油が輸送されていることが上値を抑えた。

ウェスト・テキサス・インターミディエート(WTI)10月限は、前日比13セント(0.2%)安の1バレル=83.40ドルで引けた。週間では約4%下落した。

国際指標の北海ブレント原油11月限は、42セント(0.5%)安の88.10ドルで引けた。10月限は取引最終日だった。

ホルムズ海峡を通じたエネルギー輸送への影響を見極めるため、外交を巡るあらゆる動きに注目が集まっている。

ただ、持続的な合意に至る見通しは依然不透明だ。米国はここ数日、イランに厳しい姿勢を示している。トランプ米大統領は、イラン側の主要な要求に応じて同国港湾の海上封鎖を解除する考えはないことを示唆している。米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)は、同氏が6月にイランと締結した停戦合意の条件に戻る考えはないと仲介者に伝えたと報じた。これを受け、ホルムズ海峡を巡るイランとオマーンの収益分配合意への期待が後退した。

一方、イランのアラグチ外相は、戦争の仲介役を務めるカタールと「創造的な協議」を行ったとして、米国との外交交渉に戻ることは「不可能ではない」と述べた。

合意がない中でも、ホルムズ海峡を通過する原油は徐々に増えている。イランによる船舶への脅威が残る中、ペルシャ湾岸の産油国が輸出を拡大しているためだ。石油トレーダーの推計では、同海峡を通じて日量600万-800万バレルの原油が輸送されている。

ASグローバル・リスク・マネジメントのチーフアナリスト、アルネ・ローマン・ラスムセン氏は「戦争の最初の数カ月に比べ、現在はより多くの原油が海峡を通過しているため、市場は以前ほど懸念しなくなっている」と述べた。

金相場は7月以来の大幅安。ウォーシュ氏がインフレ抑制に取り組む姿勢を鮮明にしたことで、年内の利上げ観測が強まり、相場の重しとなった。利息を生まない金にとって、金利上昇は通常逆風となる。

5月のFRB議長就任後初となる講演で、ウォーシュ氏はインフレ率を2%の目標に戻す方針を改めて表明。2%は揺るぎない固定された目標だと強調した。発言を受けてドルが上昇し、金は一時約3%下落した。

ウォーシュ氏は「短期金利は、二つの責務を達成するための主要な手段だ」と述べた。

その上で「経済活動を刺激するための非伝統的な政策は、真の危機には適しているかもしれないが、それ以外では、使うとしても限定的であるべきだ」との認識を示した。

TDセキュリティーズの商品戦略グローバル責任者、バート・メレク氏は「市場は米金融当局が9月と12月に政策金利の引き上げに踏み切る可能性が高まったと受け止めた。予想はウォーシュ氏の講演前と比べて大きく変化した」と指摘した。

トレンド追随型の商品投資顧問(CTA)による売りも、金相場の下落を加速させた。

メレク氏によると、米金融当局が物価安定への強い決意を改めて示し、金融政策がその目標を達成する最も有効な手段だとの考えを示したことで、通貨価値の希薄化を見込んで金などを買う「ディベースメント取引」は、当面後退する可能性が高い。

同氏は、金が最近の上昇分の一部を失い、年末までに直近の取引レンジである1オンス=4200-4700ドルの下限付近まで下落すると予想している。

金スポット価格はニューヨーク時間午後2時47分現在、前日比148.96ドル(3.2%)安の4450.19ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物12月限は、同134.10ドル(2.9%)安の4529.90ドルで引けた。

欧州

欧州債券市場は、短期債が相対的に軟調となる中でイールドカーブがフラット化した。ジャクソンホール会合でのウォーシュFRB議長の発言を受けた米国債市場の動きに追随した。

ウォーシュ氏の講演後、ドイツと英国の2年債利回りは4-5ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)上昇した。米2年債利回りは一時9bp上昇した。ウォーシュ氏がインフレ率の上昇を抑える必要性を強調したことで、インフレ抑制に対する同氏の姿勢を巡る債券市場の懸念が一部和らいだ。

エネルギーコストの上昇を背景に、フランスの8月のインフレ率は予想以上に加速し、欧州中央銀行(ECB)が来月利上げするとの見方が強まった。

ECB政策委員会メンバーのドレンツ・スロベニア中銀総裁は、9月の利上げには十分な根拠があるとの見方を示した。スワップ市場は、25bpの利上げを完全に織り込んでいる。

欧州株は、月間ベースで約1%上昇と、5カ月連続の上昇となった。

ストックス欧州600指数は0.5%高で取引を終えた。この日は自動車株が相対的に好調で、BMWとフォルヴィアは4%超上昇した。シティグループが両社を、株価上昇につながる好材料が見込まれる銘柄のリストに加えたことが買い材料となった。

好調な企業決算と底堅い経済成長が欧州株の上昇を支えてきたが、マクロ経済を巡る懸念が強まる中、季節的には相場が厳しくなりやすい時期に入ろうとしている。9月はストックス欧州600指数にとって例年、年間で最もパフォーマンスが悪い月となる傾向があり、過去5年間で平均2.1%安となっている。

8月28日の欧州マーケット概観(表はロンドン午後6時現在)

原題:Yen Weakens Past 160 Per Dollar, Eroding Intervention Gains (1)

Dollar Hits Week High on Warsh Address; Yen Weakens: Inside G10

Two-Year Yield Jumps on Warsh’s Inflation Pledge: Markets Wrap

Two-Year Yields Jump as Warsh Vows to Pull Down Inflation (2)

S&P 500 Falls on Tech Selloff as Warsh Vows to Fight Inflation

Oil Dips as Traders Parse Hormuz Flows and Doubts on Agreement

Gold Tumbles as Warsh’s Inflation Pledge Fuels Rate Hike Bets

Yield Curves Flatten After Fed Chair’s Speech: End-of-Day Curves

European Stocks Post Fifth Monthly Gains on Fed Policy Optimism(抜粋)

--取材協力:Nicolle Yapur、畠山朋子.

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.