■要旨
・中東危機が日本の脆弱性を露呈。政府は技術革新で省エネを推進。
・日本はエネルギー自給率の向上へ、再エネや原子力の生産を拡大。
・政府は化石燃料の利用も踏まえ、調達先の多様化と備蓄を強化。
2月末に勃発した米国とイランの紛争は、日本のエネルギー安全保障を巡る課題を浮き彫りにした。ホルムズ海峡が閉鎖されたことで、同海峡経由の原油への依存度が高かった我が国では原油の供給が大きく制約された。加えて、世界的な需給逼迫を背景とする原油価格の高騰は国内のインフレ圧力を強めた。とりわけ我が国は、原油をはじめとする化石燃料のほぼ全量を輸入に依存しているため、その価格上昇は輸入額の増加に直結する。その結果、貿易赤字の拡大観測を通じて円安圧力が強まり、化石燃料に留まらず幅広い財の輸入物価を押し上げる要因ともなった。
これに対し、政府は原油の備蓄放出や代替調達の拡大、燃料油や電気・ガス代に対する補助を実施している。ただし、これらは足元の危機への対症療法の色彩が強く、今後は危機への耐久力を高める構造的な取り組みが求められる。
我が国のエネルギー自給率(国内エネルギー生産量/一次エネルギー総供給量)は国際的にも極めて低く、危機の際にエネルギーの調達難や輸入価格上昇による富の流出を招きやすい。
エネルギー自給率の向上というと、分子である国内でのエネルギー生産拡大に目が向きがちだが、最も力を入れて取り組むべきは、分母にあたるエネルギー総供給量(使用量)そのものを減らすことだろう。省エネは新たなエネルギー源を必要とせず、立地や原材料の制約も受けにくい。何より、多様な主体に幅広い取り組みの余地がある。とりわけ資源に乏しい日本では、技術革新によって「より少ないエネルギーで付加価値を生み出す」ことの意義は大きい。もっとも、日本のエネルギー効率の改善は近年、必ずしも際立ったものではない。

効率の改善にあたっては、「節約に努める」という精神論ではなく、技術の向上や法制度の整備、インセンティブの付与などが重要になる。具体的には、建築物の高断熱化やヒートポンプの普及、排熱の有効利用、AI・デジタル技術による制御の最適化等が挙げられる。こうした分野で世界をリードできれば、輸出などを通じた成長率の引き上げにも寄与する。
そのうえで、次に優先すべきは、国内エネルギー生産量の引き上げに向けた非化石エネルギーの生産拡大だ。輸入燃料に頼らない風力・太陽光・地熱といった再生可能エネルギーや、原子力発電の活用がそれにあたる。ただし、再エネでは適地の減少に加え、原材料・部品の海外依存度の高さが、原子力発電では安全性の一段の向上が課題となる。
こうした省エネや非化石エネルギーの拡大は、地球温暖化防止のための脱炭素にも大きく寄与する。
ただし、これらの取り組みには時間がかかるうえ、将来的にも化石燃料の使用をゼロにすることは難しいとみられる。従って、化石燃料についても、危機に強い調達構造を構築する必要がある。
今回の危機前、日本の原油調達に占める中東依存度は95.1%(資源エネルギー庁算出、2024年度)に達していた。この主な理由は大量調達の容易さや輸送面での利便性などから、中東産原油が経済合理性に優れていたためだ。政情はもともと不安定であったものの、ホルムズ海峡の封鎖は発生確率の低いテール・リスクとみなされてきた。
しかし、今回の危機で経済合理性を優先して中東への依存を高めてきたことのリスクが顕在化した。そして、ホルムズ海峡の封鎖が持つ政治的・軍事的な影響力が改めて示されたことで、今後も長期にわたって海峡封鎖のリスクが燻り続ける可能性が高い。
従って、今後は原油調達の恒久的な多様化や権益の獲得、備蓄の強化などが検討の課題になる。原油以上に不足感が高まったナフサについても、備蓄を含めた対応の強化が課題となる。
エネルギー自給率の低い我が国にとって、エネルギーの供給途絶や価格高騰は経済に甚大な悪影響を及ぼす。今回の危機はエネルギー安全保障の重要性を広く再認識させることになった。危機に強い構造の構築に向けて、政治の判断力と実行力が今まさに問われている。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主席エコノミスト 上野 剛志 )
