(ブルームバーグ):米ワイオミング州で27-29日、ジャクソンホール会合(カンザスシティー連銀主催の年次シンポジウム)が開催される。各国の中央銀行当局者は、世界経済が新たな脅威に直面する中、世界的にインフレへの認識が見直され、借り入れコストが上昇する可能性を強調するとみられる。
昨年のジャクソンホール会合では、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長(当時)が利下げへの道筋をつける一方、欧州の当局者は追加緩和を議論していた。今年、政策当局者から発せられるメッセージは、大きく異なるものになりそうだ。
イラン戦争やAI投資ブーム、異常気象による物価上昇圧力に直面し、一部の中央銀行はすでに利上げに踏み切っており、他の中銀も続くと予想されている。市場と同様、中央銀行当局者も、ウォーシュFRB議長の発言に注目しているが、ウォーシュ氏はこれまで、物価上昇への対応について明確な姿勢を示すことを避けてきた。
インフレ対応に差
投資家の間では、最近の物価上昇圧力が、政府の債務水準上昇と重なる場合の影響への警戒が強まっている。長期債利回りは数十年ぶりの高水準に達し、米財務省は長期国債を買い戻す計画を打ち出すという市場介入に踏み切った。
ドイツのシン・アイス・マクロエコノミクスのチーフエコノミスト、スピロス・アンドレオプロス氏は「世界の中央銀行当局者は慎重な判断に傾き、インフレをあえて取りたくないリスクとして扱う可能性が高い。次の供給ショックがいつ起きるかは誰にも分からない」と語った。
2022年のロシアによるウクライナ侵攻後に起きたエネルギー価格の急騰は、ホルムズ海峡の情勢を注視する当局者の脳裏に、なお強く残っている。価格上昇を当初過小評価した当時の経験から、多くの当局者は現在、供給途絶のリスクにより敏感になっている。
欧州中央銀行(ECB)は6月に0.25ポイントの利上げを実施し、9月にも再び同幅の利上げに踏み切るとの見方が広がっている。ジャクソンホール会合には、ECBからシュナーベル理事らが参加する。オーストラリア、ノルウェー、インドネシアの中央銀行も今年、利上げした。
FRBとイングランド銀行(英中央銀行)はこれまで利上げを見送っているものの、いずれも一部の政策当局者が利上げを主張している。英国では、労働市場の低迷が物価と賃金の上昇を抑えると当局者は見込んでいるが、「保険としての利上げ」を支持する向きもある。FRBは7月、5会合連続で政策金利を据え置き、近く利上げするとのシグナルも示さなかった。
日銀の植田和男総裁は、今年のジャクソンホール会合を欠席する。政策変更の可能性が高いとみられている9月の金融政策決定会合を前に、植田氏の考えを探る機会が一つ減ることになる。
各国でインフレ対応の緊急度に差があるのは、変動するエネルギー価格から受ける影響が異なるためだ。ソシエテ・ジェネラルの米国調査責任者、スバドラ・ラジャッパ氏は、影響の大きさはエネルギーの輸入依存度で変わり、欧州と日本は「中東情勢と原油価格の影響をはるかに受けやすい」と述べた。
各国の対応の違いには、イラン戦争前の状況も関係している。当時、ECBは米国や英国より積極的に利下げを進め、政策金利が経済活動を抑制しない水準まで低下していた。
ゴールドマン・サックスの欧州担当チーフエコノミスト、ヤリ・ステーン氏は、米国と英国では、政策金利はなお景気抑制的な水準にあると推計している。同氏は「出発点が異なるため、エネルギーショックへの対応を迫られる度合いにも差が生じる。FRBとイングランド銀行は、ショックがどのように展開するかを見極める時間的な余裕がより大きい」との見方を示した。
注目はウォーシュ議長
ウォーシュ氏にとって今回の会合は、インフレ率を目標の2%に戻すため、どのような政策運営を行う考えなのかを明確にする機会となる。就任から数カ月、ウォーシュ氏は今後の金利の道筋について市場に方向性を示すことに消極的で、経済情勢をどうみているのか、市場は把握しにくい状況となっている。
一部の投資家は、こうしたコミュニケーション戦略がFRBの信認を損ない、世界的な債券売りの一因になったと指摘する。債券相場の急落はECBにとっても頭痛の種だ。ユーロ圏21カ国の一部では、債務の持続可能性を巡る懸念が繰り返し浮上しており、中でもフランスはたびたび市場の厳しい視線にさらされている。
こうしたことから、今年のジャクソンホール会合は、1年前よりやや緊張感のある雰囲気となる可能性がある。当時は、利下げしないことを理由にトランプ大統領から執拗な批判を受けていたパウエル氏を、各国の中央銀行当局者が擁護していた。
ウォーシュ氏が債券市場をこれ以上動揺させることなく、金融政策について多くを語らない姿勢を維持できるかどうかは、米国だけでなく、ジャクソンホールで同氏と顔を合わせる多くの中央銀行当局者にとっても重要な問題だ。
原題:Warsh’s Peers to Highlight Global Inflation Risk at Jackson Hole(抜粋)
(グラフを更新します)
--取材協力:藤岡徹、Tom Rees.
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