記事配信→X投稿→差し替え記事

8月26日、城内実経済財政担当相の講演を巡り、時事通信が配信した記事と、その後の差し替え対応が注目を集めている。

まず同日15時44分、時事通信は「◎城内経財相:『財政健全化』が目標の国ない=骨太方針の文言削除で」との見出しで記事を配信した。記事では、骨太方針2026から「財政健全化」の文言が削除された理由として、城内氏が「そんな言葉を目標にしている国はない」と発言したと紹介された。

また、「PB単年度黒字化目標一本足打法はどこの国でやっているのか。日本だけだ」との発言や、「(日銀の独立性について)あえて書かなかったのは当たり前。金融政策の手段の自主性は日銀法3条にある」との説明も掲載された。この記事全体からは、「財政健全化」という概念そのものに否定的な姿勢を示し、PB黒字化目標を中核目標から外すことを正当化し、かつ日銀の利上げ路線にも批判的なスタンスを示したような印象を受ける構成となっていた。

しかし、その約2時間20分後の18時02分、城内氏はXで反論を行った。城内氏は、「この記事の見出し及び記述は、私の発言の趣旨とは異なり、極めてミスリーディングです」と述べた上で、「私が申し上げたのは、『財政健全化を目標とする国は存在しない』ということではありません」と説明した。さらに、「『財政健全化』という言葉は、その定義が必ずしも明確ではなく」「政府の目標として掲げる言葉として適切ではないのではないか、という問題提起をしたものです」と発言の真意を説明するとともに、「もちろん、財政の持続可能性を確保することは極めて重要です」と強調した。

そして、その約1時間半後の19時33分、時事通信は「○城内経財相:『財政健全化』目標とする国ない=骨太方針からの文言削除で☆差替」との見出しで差し替え記事を配信した。差し替え後の記事では、城内氏のXでの説明内容が新たに盛り込まれた一方で、当初記事に掲載されていた日銀に関する発言は全面的に削除された。また、記事末尾には、「政府の目標として掲げる言葉として適切ではないのではないか、という問題提起をしたものだ」「財政の持続可能性を確保することは極めて重要だ」という城内氏の説明が追加された。

もちろん、外部からは記事差し替えの経緯は分からない。しかし、記事配信、Xによる反論、そして差し替え記事配信という時系列を見る限り、少なくとも城内氏側が記事内容を問題視していたことは間違いないと言え、記事の差し替えは、結果として城内氏がXで主張した方向に沿うものとなった。仮に城内氏側から何らかの説明や訂正要請があったとすれば、それは単なる事実誤認の修正にとどまらない意味を持つ。自らが市場や世論に「そう思われたくない」と考えている論点である可能性が高いからである。つまり、今回差し替えられた箇所こそが、城内氏、ひいては高市政権が現在もっとも神経を使っているポイントである可能性がある。

差し替えによって「財政規律放棄」の印象が後退した

今回の差し替えで最も注目すべきなのは、「財政健全化を否定した」という印象が大きく後退したことである。

城内氏はXで、「私が申し上げたのは、『財政健全化を目標とする国は存在しない』ということではありません」と明言した。さらに、「『財政健全化』という言葉は、その定義が必ずしも明確ではなく」「政府の目標として掲げる言葉として適切ではないのではないか、という問題提起をしたものです」と説明している。つまり城内氏の主張は、「財政健全化は不要だ」ではなく、「財政健全化という言葉は意味が広すぎるため政策目標としては適切ではない」というものである。

これを受けて差し替え記事では、「政府の目標として掲げる言葉として適切ではないのではないか、という問題提起をしたものだ」との説明が新たに追加された。さらに、「財政の持続可能性を確保することは極めて重要だ」との認識も追記された。つまり記事は、「財政健全化を否定した」というものから、「財政健全化という言葉の使い方に疑問を呈した」ものへと移されたのである。これは単なる言葉の修正ではなく、財政規律に対する政権のスタンスの受け止め方を修正する意味合いを持っていた可能性が高い。そしてこれは、政権が財政規律を軽視しているとみられることは良くないという考えが強いことを示唆していると言える。

特に、当初の記事では(今回の骨太方針策定にあたって)「原案は官僚ではなく『私どもで作っている』と述べた」とされていたが、差し替え後の記事ではこの記述が削除されていた点は重要だろう。削除されたということはニュアンスの修正が必要(誤解)なのではなく、発言を報道して欲しくないという意図が反映された可能性がある。いわゆる「骨太ショック」や今後の金利上昇リスクとの関連で、政策決定の責任の所在に市場の関心が向かうことを避けたいとの思惑があった可能性もある。そして、責任問題に発展する可能性が小さくないと考えているのだろう。

日銀関連の記述が丸ごと削除された意味

今回の差し替えでさらに注目されるのが、日銀に関する部分が全面的に削除されたことである。当初の記事には、下記が記されていたが、訂正後は全面的に削除された。

「強い経済の実現には『適切な金融政策運営が行われることも非常に重要』と明記したことが日銀の利上げをけん制したと受け止められ、長期金利が上昇したことについて、『(日銀の独立性について)あえて書かなかったのは当たり前。金融政策の手段の自主性は日銀法3条にある』と弁明。一方、日銀に対し政府との緊密な連携を求めた点については『日銀法4条にあるのでそれを書いただけ』と強調した」

この記述についても、ミスリーディングだったのではなく、発言内容が報じられることが望ましくないと考えられた可能性が高い。市場では、政権が日銀の利上げに否定的との見方や、日銀の独立性への懸念を指摘する声もみられる。円安が進むことでインフレ懸念が高まり、長期・超長期金利に上昇圧力がかかる中で、やはりその責任が政権にのしかかってくることを懸念しているのだろう。

金利上昇リスクへの感応度は高まっている可能性

もちろん、今回の差し替えだけで政権の真意を断定することはできない。しかし、もし城内氏側の働きかけによって記事が修正されたのであれば、その行動自体が重要なシグナルである。城内氏はXの投稿で「もちろん、財政の持続可能性を確保することは極めて重要です」と述べ、「債務残高対GDP比の安定的な引下げを中核的な目標とする」ことを改めて強調した。さらに、「PB、財政収支、利払い費、公債依存度、国債発行額、税収等の財政指標を多角的に分析・検証する」とも説明している。ここから読み取れるのは、政権が「責任ある積極財政」を維持しながらも、市場の信認や長期金利への影響を無視しているわけではないというアピールである。

高市政権は「リフレ派的(日銀の利上げに反対)」「積極財政」といった主張によって、これらの政策を支持層のサポートを受けてきた面がある。政権からはそれらの支持者を意識して、今回の城内氏の講演のような姿勢がアピールされることがあるだろう。これらの主張は政権の本音である可能性が高い。

しかし、このようなポリシーミックスが債券市場や為替市場にストレスを与えていることを考慮すると、あまり強気なことは言えない面もあるのだろう。少なくとも今回の対応を見る限り、高市政権は市場とのコミュニケーションを重視し始めている可能性がある。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)