人間のように動き、働き、行動するよう設計されたロボット。モルガン・スタンレーは、ヒト型ロボットの世界市場規模が2050年までに5兆ドル(約795兆円)に達する可能性があると推計している。この分野はテクノロジー覇権を巡る米中競争の最前線の1つだ。

中国では政府系ファンド(SWF)や国内のテクノロジー大手、自動車メーカーなどが今年、この分野に1000億元(約2兆2400億円)を超える資金を投じている。

中国はロボットとAIの融合で、世界をリードできるとの見方に賭けている。物質世界を理解するマシンが、インタラクティブで動くよう取り組んでいる。

ユニツリー・ロボティクス(宇樹科技)など中国のヒト型ロボットメーカーは、生産台数や実環境での導入ですでに、イーロン・マスク氏率いるテスラやフィギュアAIなど米国勢に先行している。

浙江省杭州に本社を置くユニツリーは上海で、約61億元規模の新規株式公開(IPO)を実施。上海証券取引所で19日に同社株の取引が始まり、中国本土初の上場ヒト型ロボットメーカーとなった。ユニツリーの株式を手に入れようと投資家が殺到し、同社株の初値は629%高を記録した。

ユニツリーはどんな会社か

ユニツリーは、中国最大級のヒト型ロボット・四足歩行ロボットメーカーで、走る、跳ぶ、起伏の激しい地形を移動する、産業作業をこなすといった能力を持つマシンを開発している。

大学を卒業した王興興氏が10年前に創業した当初は、四足歩行ロボット、いわゆるロボット犬の開発に注力していた。その後、ヒト型ロボット分野に進出し、2023年に初のモデル「H1」を発売した。

ユニツリーは現在、主に大学や研究機関、企業にロボットを販売。大半が開発や試験に使われている。2025年には国内外の顧客にヒト型ロボットを5500台超、四足歩行ロボットを3万3000台余り販売した。最も安価な「R1 Air」の価格は約4900ドルで、市場に出ている他社の競合製品を大幅に下回る価格だ。

最近では、中国の春節(旧正月)恒例の大型テレビ番組「春節聯歓晩会」への出演を通じ、研究分野以外でも知名度を高めている。

2025年の番組では同社のヒト型ロボット16台が、人間のダンサーと共に息の合った民族舞踊を披露。今年は複数のユニツリー製ロボットが、ジャッキー・チェンの「酔拳」のスタイルを模したカンフーの妙技を披露し、身体動作の器用さが目に見えて向上したことを示した。

ユニツリーにはどれほどの投資家需要が集まったのか

ユニツリーのIPOには個人投資家から膨大な需要が集まった。ブルームバーグの試算によると、申し込み株数は発行株数の5500倍超に達し、注文総額は8兆1000億元となった。半導体メモリー大手の長鑫存儲技術(CXMT)を傘下に置く長鑫科技集団(CXMT Corp.)が先月の大型IPOで集めた個人投資家による注文総額約7兆1000億元を上回った。

ユニツリーのIPOでは、同社を支援する戦略投資家も注目された。発行株式の約20%は、AIスタートアップのDeepSeek(ディープシーク)やテンセント・ホールディングス(騰訊)の関連投資会社に加え、中国石油天然ガス集団(CNPC)や中国南方電網、中国電信(チャイナテレコム)といった国有大手企業の投資部門で構成するグループに割り当てられた。

ユニツリーはDeepSeekのAIテクノロジーを活用し、ヒト型ロボット向けの身体性知能モデルを開発する。テンセント系の投資家も同様の取り組みで協力することに合意した。

国有企業は、油田や製油所、電力システムでユニツリーのロボットの実用化をさらに進める。こうした戦略的投資家はいずれも、購入するロボットの台数や購入時期について詳細を明らかにしていない。

中国はなぜヒト型ロボットに巨額投資をするのか

中国政府は、ヒト型ロボットを2020年代末までに革命的な飛躍を遂げる未来産業の1つと位置付けている。中国と米国のヒト型ロボットスタートアップも同様の展望を共有している。ロボット向け知能モデルの開発について、ヒト型ロボットが物理世界を理解し、それに応じて人間が日常的に行う作業をこなせるほど賢くなる「ChatGPTモーメント」まであと数年の段階にあると確信している。

中国政府はこのテクノロジーを活用し、自動車から家電・電子機器に至るまで、ドイツや日本などが長年優位だった先端製造業の最前線に立つことを目指している。政府は製造業のサプライチェーンでヒト型ロボットの導入を拡大する取り組みを始めており、今年末までに1万台超を各地の工場に投入する目標を掲げている。

中国がこうしたテクノロジーの開発を一段と強化している理由の1つは、今後数十年で労働力不足が見込まれていることだ。出生率の持続的な低下に加え、Z世代の働き手が単調な工場労働を敬遠する傾向が強まっており、特定の職場環境でヒト型ロボットを導入する必要性を後押ししている。

ヒト型ロボット産業のテクノロジーはどこまで進んでいるのか

ヒト型ロボットのテクノロジーはここ数年、急速に高度化している。最新の機体は、ねじを締める、洗濯物を畳む、コーヒーを入れるといった作業をこなすことができ、物流拠点や自動車工場、電子機器の組み立てラインで試験が進んでいる。一部では限定的ながら実際に導入されている。

ただ、人間に似たマシンが踊ったり、複雑な実演をこなしたりする動画が拡散し、市場の期待が盛り上がっているとはいえ、業界はなお黎明(れいめい)期にある。

工場の組み立てラインで安定して働き、家事をこなし、病院で高齢者を支援するために必要な器用さやバランス能力、信頼性を備えたロボットを製造することは、依然として極めて難しい工学上の課題だ。

業界が直面する最大の難題の1つは、人間と同じように物をつかみ、操作し、人間向けに設計された道具を効果的に使える手を再現することだ。エンジニアは限られた空間にモーターや関節、腱のようなケーブルを収める一方、機体を軽量に保ち、過熱も防がなければならない。

もう1つの課題は、ヒト型ロボットを制御する「脳」、つまりAIモデルの開発だ。AIモデルは視覚情報と言語による指示を組み合わせることで、例えばロボットアーム1本でも、ヒト型ロボットをあらゆる動作を事前に明示的にプログラムすることなく作業を実行できるようにする。

ただ、振り付けや台本に沿った実演ではなく、こうしたマシンが真に自律して動けるようにするロボットの頭脳は、なお開発途上にある。

中国のヒト型ロボット技術は米国と比べてどうか

中国が多くの面で米国に先行している。米調査会社スマート・アナリティクス・グローバルによれば、2026年1-6月(上期)に世界で出荷されたヒト型ロボットの約97%を中国メーカー製が占めた。

ユニツリーとアジボット(上海智元新創技術)、UBテック・ロボティクス(優必選科技)がヒト型ロボットの販売を拡大する一方、テスラやフィギュアAI、アジリティー・ロボティクスなど米企業の販売台数は、中国勢が報告する規模のごく一部にとどまっている。

杭州の浙江大学フューチャー・ラーニング・センターで、ヒト型ロボットにイチゴの摘み取りを学習させる学生

中国のロボットメーカーは、国内に広がる巨大な製造業のサプライチェーンを活用している。ユニツリーなどは多くの部品を自社で製造するか、国内から調達している。

深圳では、多くのスタートアップがロボットの組み立てに必要なハードウエアの大半を近隣で調達できるとしており、新しいテクノロジーを迅速に開発できる。

これに対し米国の競合企業は、特殊部品が海外のサプライヤーから届くまで数週間、場合によっては数カ月待たなければならないことが多い。

中国はヒト型ロボットの実用化でもよりハイペースに動いている。中国の主要メーカーは今年、工場への導入規模を数十台から数百台、さらには数千台へと拡大し、実環境で得た経験を技術改良に生かしている。

原題:Why China’s Humanoid Robot IPO Has Spurred a Frenzy: Explainer(抜粋)

--取材協力:Saritha Rai.

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