利上げの是非を巡り難しい判断を迫られている米連邦準備制度に、新たに複雑な要素が加わった。ベッセント米財務長官が長期の借り入れコストを引き下げるために金融市場に介入したことだ。

介入が奏功して債券利回りが低く抑えられれば、インフレ率が高止まりする中で借り入れを促すことになり、ウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長率いる金融当局に利上げ圧力がかかると、FRBウオッチャーは指摘する。

ウォーシュ議長は、連邦準備制度の金利見通しではなく、経済指標を手掛かりにするよう投資家に促している。そうなれば、市場が経済情勢をどう捉えているかについて、金融当局は一段と明確なシグナルを得られる。しかし、財務省の介入によって、市場が発するシグナルが分かりにくくなる可能性があると、FRBウオッチャーは話す。

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ウォーシュ議長は金利据え置きを決めた7月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の記者会見で、「市場参加者は審判ではなくボールを見てプレーすることを学びつつあり、市場価格は今後も参加者が適切と判断する方向と幅で反応していくだろう」と述べた。

ベッセント氏が長期債の買い戻しを拡大する方針を打ち出したことで、こうしたアプローチは複雑になっている。買い戻しプログラムの発表を受け、米30年債利回りは当初、急低下した。

ウルフ・リサーチのチーフエコノミスト、ステファニー・ロス氏は「これは、市場はボールを見てプレーする必要があるというウォーシュ氏の考えとは明らかに整合しない」と指摘。「理論上は、市場から得ているシグナルが不明瞭になる。連邦準備制度は今や、その市場のシグナルを以前にも増して重視しているとされる」と語った。

今後は、米財務省のプログラムが利回りを抑制する上でどの程度効果を発揮するかに大きく左右される。このプログラムの支持派は、世界的に国債利回りが急上昇する中、借り入れコストを抑える巧みな措置だと評価している。

ベッセント氏は20日、今回の介入が連邦準備制度の利上げ判断に影響するとの見方に反論した。経済専門局CNBCとのインタビューで、「それは、私が今週発表した買い戻しに関する決定とは何の関係もない」とし、「一つには、ここでシグナルを発し、利回りが基調的なファンダメンタルズを反映していないとわれわれが考えていることを示す狙いがある」と語った。

抜本策不在

一方、ベッセント氏プログラムの懐疑派は、今回の措置では借り入れコスト上昇の根本的な原因である債務の急増には何ら対処できないと指摘する。米国の公的債務残高は初めて40兆ドル(約6364兆円)を突破した。国民の間で歳出の伸び抑制への支持が広がる兆しもほとんどない。

30年債利回りは20日の取引で、前日の財務省の発表直前の水準まで急速に戻ったが、その背景にはこうした事情もある。米金融当局者の初期の反応も慎重だ。

サンフランシスコ連銀のデーリー総裁は20日、ブルームバーグ・サーベイランスとのインタビューで、「まだ初期段階であり、こうした問題について十分に検討する機会を得るまでは、先回りして議論するようなことはしたくない」と述べた。

それでも、米財務省の措置は、既に難しい局面にある連邦準備制度の「連立方程式」に新たな変数を加える形になる。

賛成9、反対3で金利据え置きを決めた7月28、29両日のFOMC会合議事要旨によると、複数の当局者が同会合での利上げを支持し、多くの当局者はインフレ率が鈍化しなければ金融引き締めが必要になるとの見方を示した。

その後に発表された新たな経済指標は、経済活動の減速を示しており、連邦準備制度への利上げ圧力を和らげる可能性がある。7月の小売売上高は1年強ぶりの大幅な落ち込みとなり、7月の消費者物価指数(CPI)では変動の大きい食品とエネルギーを除くコア指数も抑制された。

ネーションワイド・ミューチュアル・インシュアランスのチーフエコノミスト、キャシー・ボストジャンシック氏は、「米財務省が債券買い戻しの規模を大幅に拡大する介入に動いたことで、連邦準備制度の金利見通しが複雑になるとは考えていない」と発言。「ただ、ウォーシュ議長が市場からの『フィルターのかかっていない』フィードバックをどれほど重視しているかを強調していたことを考えると、確かに皮肉ではある」と話した。

RBCキャピタル・マーケッツの米金利戦略責任者、ブレーク・グウィン氏は、米財務省が利回りを低く抑えることに成功すれば、金融環境を引き締めるために連邦準備制度が利上げを迫られる可能性があると指摘した。

グウィン氏は「金利据え置きを支持する論拠の一つが、長期金利がある意味で『連邦準備制度に代わって仕事をしている』ということだったのなら、ベッセント氏の措置を受けて債券相場が大幅に上昇すれば、理論上は利上げの必要性が高まるだろう」と話した。

エバーコアISIのクリシュナ・グーハ副会長はリポートで、最終的にはベッセント氏の措置によって、連邦準備制度から何ら示唆を受けなくても市場が経済や金融政策について独自の見方を形成できるという、ウォーシュ議長のメッセージが弱まると指摘する。

グーハ氏は「投資家がベッセント氏について、長期ゾーンを管理しようとしているとみている状況では、そう主張するのは難しい」とコメントした。

原題:Bessent’s Treasury Twist Clouds Warsh’s Plea to ‘Play the Ball’(抜粋)

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