壊滅的ショックを緩和した「3つの構造要因」

最悪の事態を回避できた背景には、市場と国際社会が取った迅速な対応と構造的な要因が存在します。

第1の要因は、即座に実施された大規模な石油備蓄の放出です。イラン危機により日量約2000万バレルが市場から失われましたが、IEAの主導により世界中の貯蔵タンクから短期間で約4億バレルもの石油が供給されました。

特にアメリカは戦略石油備蓄(SPR)から大量の放出を行い、自国の石油輸出量は過去最高を記録しました。この十分な供給体制と欧米諸国の経済的余裕が、西側市場における価格ショックを和らげる防波堤となったのです。一方で、巨大な油田を持たず中東やロシアへの依存度が高いアジアの途上国にとっては、ロシア産石油の重要性が浮き彫りになるなど、厳しい試練となりました。

第2の要因は、迂回パイプラインの活用です。完全な供給停止を防ぐため、サウジアラビアは国土を横断するパイプラインを使って紅海側のヤンブー港へ、アラブ首長国連邦(UAE)はフジャイラ港へ原油を移送しました。

これにより600万バレルが補填されました。サウジの横断パイプラインはこれまで本格的な危機で試されたことがありませんでしたが見事に機能し、最悪のシナリオを回避する鍵となりました。UAEも現在の送油能力(日量約150万バレル)を2027年末までに300万バレルへ引き上げる計画を進めており、海峡を回避する陸上ルートの存在感が高まっています。