(ブルームバーグ):中国のスタートアップ、ムーンショットAI(月之暗面)は7月17日、新たなAIモデルを発表した。その高い性能が世界的な注目を集めると同時に、株式市場を大きく動揺させた。
北京に本拠を置く同社のAIモデル「Kimi K3」は、業界ベンチマークで米OpenAIやアンソロピックの最上位モデルに匹敵する性能を示した。国内の競合DeepSeekの陰に隠れてきたムーンショットにとって驚きの躍進だ。
中国AI企業の台頭により、アンソロピックをはじめとする米主要企業が投資縮小を迫られかねないとの懸念から、17日の米株式市場ではAI関連株や半導体銘柄が急落した。そうなれば、需要が損なわれかねないとの観測で、半導体大手の米エヌビディア、韓国のSKハイニックス、サムスン電子は売られた。
ムーンショットとはどのような会社か
ムーンショットは2023年初め、清華大学の元教授、楊植麟氏が設立した。楊氏は米メタ・プラットフォームズやアルファベット傘下グーグルに勤務した経験がある。DeepSeekが台頭する前、楊氏は中国AI業界の看板的存在だった。米カーネギーメロン大学出身で、自然言語処理に関する被引用数の多い論文を10本以上執筆している。
楊氏がOpenAIに挑む企業の創業に乗り出した際、ベンチャーキャピタルが相次いで出資に名乗りを上げた。OpenAIの対話型AI「ChatGPT」の代替サービスとして、中国で「Kimi」が最も人気を集める中、ムーンショットの企業価値は200億ドル(約3兆2000億円)に達した。
楊植麟氏はほかに何で知られているか
ムーンショットの創業者は単なる学究の徒ではない。33歳の楊氏は大の音楽好きで、社内の随所に愛好するバンドの名を冠している。本社の会議室にはレディオヘッド、レッド・ツェッペリン、クイーン、ニルヴァーナなどの名が並ぶ。Kimiの有料プランはクラシック音楽の速度標語にちなみ「アダージョ」「アンダンテ」「モデラート」と名付けられている。社名も、楊氏が最も愛するピンク・フロイドのアルバム「Dark Side of the Moon」にちなみ、中国語で月の裏側を意味する「月之暗面」と名付けられた。

ムーンショットのビジネスモデルは
ムーンショットは、新たな資金調達ラウンドで最大20億ドルを集めることを目指していると、ブルームバーグは6月に報じた。実現すれば企業価値は300億ドルとなり、中国AI市場の有力企業の一角を占めることになる。中国政府が自国企業による海外上場への統制を強めたことを受け、ムーンショットは香港での新規株式公開(IPO)に向け、オフショア構造の解消を進めている。
先行きの売上高を示す指標である年間経常収益(ARR)は4月に2億ドルを突破した。チャットボットと大規模言語モデル(LLM)への需要急増が寄与した。同社はチャットボットの段階別サブスクリプションプランを提供するほか、基盤技術を法人顧客に提供している。
米国のライバルにどのような脅威となるか
ムーンショットは、Kimiの最新版がコーディングのタスクに優れていると主張する。米企業は自社モデルの運用・改良のためAIインフラに数千億ドルを投じており、その多くが半導体メーカーに流れている。コーディングは先端モデル企業にとって最も収益性の高いサービスの一つで、IPOを控えたアンソロピックやOpenAIの収入をけん引している。ムーンショットが有力な代替手段を提供できれば、競合他社の事業計画の前提が崩れかねない。
中国勢はすでに自社のサービス価格を積極的に引き下げ、米国勢を下回る水準を提示している。ベンチマークサイトのアーティフィシャル・アナリシスによると、標準化された知的タスクの実行にかかる加重平均コストは「Kimi 2.6」やDeepSeekの「V4 Flash」では、2-33セント程度にとどまる。アンソロピックの「Claude Fable 5(クロード・フェイブル5)」で同じタスクを実行した場合の2.75ドルを大幅に下回る。
これらに比べると、ムーンショットの最新モデルは割高だ。同ランキングにおけるKimi K3のコストは95セントと推定される。

中国AI企業は公正に競争しているのか
Kimiをはじめとする中国のAIモデルが、アンソロピックの研究成果と投資の恩恵をすでに受けている可能性もある。アンソロピックは今年2月、ムーンショット、DeepSeek、ミニマックスの3社が「蒸留」と呼ばれる手法でクロードの能力を基に自社モデルを訓練したと主張した。ブログ投稿で、3社による「業界規模のキャンペーン」が行われており「当社の利用規約と地域アクセス制限に違反」しているとした。ムーンショットはこの件に関するコメント要請に応じなかった。
最新モデルの発表に際し、ムーンショットは挑戦者としての立場を強調した。「K3は全体として非常に競争力の高いモデルだが、それでも『クロード・フェイブル5』や『GPT 5.6 Sol』と比較すると、ユーザー体験に目立った差が残る」としている。
原題:What Is Moonshot AI and Why Is It Roiling Markets?: Explainer(抜粋)
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