10年前、新進気鋭のスターだったゼンデイヤは19歳で米化粧品ブランド「カバーガール」の新たな広告塔に起用された。

その数年前には、将来を期待されていた20歳のシンガーソングライター、テイラー・スウィフトがグローバルアンバサダーを務めていた。1961年のブランド創設以来、カバーガールは一貫して若いセレブやモデルをブランドの顔に据え、主な顧客層である若年層に化粧品を販売してきた。

しかし、その方針はもはや過去のものとなりつつある。長年にわたり10代や20代の消費者を追い続けてきたカバーガールだが、今は若い顧客の獲得競争から距離を置きつつある。

新たに打ち出した戦略は、X世代最優先だ。すなわち、ブランドと共に成長し、現在40代、50代から60代前半となった女性たちにアピールしていく方針だ。

「カバーガールは、インディーズブランドの成功や、若いZ世代の支持を集める様子を見て、自分たちも同じことをしなければならないと考えたのが間違いだった」とコティのコンシューマービューティー部門を率いるゴードン・フォンブレッテン氏は話す。

コティは2016年、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)から40を超える一般向け美容ブランドの一つとしてカバーガールを買収した。125億ドル(現在の為替レートで2兆円)の取引の一環だった。

フォンブレッテン氏によれば、それ以降、ブランドは「市場シェアと存在感を失い」、消費者が真っ先に思い浮かべる美容ブランドでもなくなったという。一方で、「現在進めている大幅なリセットによって、本来あるべき姿を取り戻せると考えている」と語った。

ファッション誌衰退

X世代は、1965年ごろから1980年ごろまでに生まれた人々を指す。この世代はしばしば「忘れられた世代」と呼ばれ、それ以前のベビーブーマー世代や、その後のミレニアル世代と比べて、マーケティングの対象として十分な注目を集めてこなかった。

しかし、美容業界から見過ごされていると感じているX世代は、美容市場全体の支出の約3分の1を占める。また、市場調査会社NIQによると、所得が最も高い時期を迎えることから、少なくとも2033年まではあらゆる消費カテゴリーで世界最大の支出世代であり続ける見通しだ。

フォンブレッテン氏は「非常に長い期間だ」と述べる。コティは現在の顧客のうちX世代が占める割合は明らかにしていないが、「カバーガールの顧客基盤の中で重要かつ拡大している層」だという。

コティによれば、年齢が高めの世代に軸足を移す背景には、若年層に対するブランド力が低下していることがある。若い消費者はメーク自体は好むものの、特定ブランドへの忠誠心は高くない。

Z世代やさらに若いアルファ世代は、「TikTokショップ」などのソーシャルメディアや電子商取引(EC)プラットフォームで見つけた商品へ次々と乗り換える傾向がある。

加えて、紙のファッション誌が衰退する中、現在の10代は「カバーガール」という言葉の由来自体を知っているのだろうかという問題もある。

今年夏の半ばからテレビやソーシャルメディアで始まる新たな広告キャンペーンでは、ここ数年ブランドの顔となってきた20代のセレブではなく、45-55歳のモデルを起用する予定だ。

コティはこの方針転換によって約7000億ドル規模の世界の美容市場でカバーガールの存在感を回復させ、本来見失うべきではなかったミドルクラス(中間所得者層)の中年女性顧客を取り戻せると期待している。

ブランドポートフォリオ見直し

高めの年齢層を狙うだけでなく、カバーガールは低価格路線をさらに強化し、手頃な価格のブランドとしての位置付けを固める考えだ。

カバーガールはもともとコティの中でも価格帯が低いブランドだが、今後発売する全ての新製品について、同社が「魔法」と呼ぶ10ドル未満、理想的には9.95ドル以下に価格を抑える方針だ。

12-15ドルで販売した最近の新商品は、販売目標を達成できなかったという。こうした価格設定は、子育てや高齢の親の介護、老後資金の準備を同時に担うケースが多いX世代にとって特に魅力的だ。

フォンブレッテン氏によると、生産や商品開発を外部パートナーへより多く委託することで事業運営の効率化とスピード向上を進めており、それによって価格引き下げが可能になるという。

ショッパーズ・ドラッグ・マートで取材に応じるフォンブレッテン氏(カナダのオンタリオ州バリー)

もっとも、この戦略にはリスクもある。X世代が子育てや介護の負担が大きい時期を過ぎ、自由に使える所得が増えた場合でも、カバーガールにとどまるのか、それとも高級ブランドへ移るのかは分からない。

バンク・オブ・アメリカ(BofA)のアナリスト、アンナ・リズル氏は、将来の顧客層も継続的に取り込めなければ、新たな戦略は「長期志向ではなく短期志向」に終わると指摘する。

これに対し、フォンブレッテン氏は電子メールで、カバーガールは「X世代が『スイートスポット』であることを認識しつつも、あらゆる年代・世代のためのブランドであり続ける」と説明した。

コティにとっては成果が求められている。カバーガールを取得した取引は、年間売上高を100億ドル超へほぼ倍増させることが期待されていた。しかし実際には、多額の負債を抱える結果となり、直近の会計年度では売上高59億ドルに対して約4億ドル近い赤字を計上した。

同社の時価総額は過去5年間で70%余り減少し、約20億ドルまで縮小している。

コティは昨年12月、大規模な経営陣刷新を発表した。その約3カ月前には、2020-24年に最高変革責任者を務めた事業再建の専門家フォンブレッテン氏を「コンシューマービューティー」部門の責任者として起用した。同部門には「マックスファクター」「リンメルロンドン」「サリーハンセン」なども含まれる。

ブランドポートフォリオの戦略的見直しを昨年秋に開始したコティだが、これまでのところ売却したブランドはない。

フォンブレッテン氏は、見直しが進む中でも、自身の使命は「売却プロセスを進めることでは決してない」と述べる一方、「外部から関心が寄せられるのであれば、それはもちろん評価されている証しだ」とも説明した。

当面、最も重視するのはカバーガールの立て直しだという。「誰にでも何でも提供しようとするのではなく、その消費者層にしっかり向き合っていく」と同氏は強調した。

(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)

原題:CoverGirl Stops Chasing Gen Z to Focus on Middle-Aged Women(抜粋)

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