この10年間、米住宅産業で最も強力な「売り文句」は物件の不足だった。購入できる住宅が少ないほど、価格が過去最高を更新してもなお、家を買いたいという心理は強まった。

新型コロナ禍で過去最低に低下した住宅ローン金利が、需要を大きく押し上げ、競争は激化、住宅価格が急騰し、アフォーダビリティー(購入能力)は崩壊した。全米の住宅不足は150万戸から730万戸に上るとの試算もある。

しかしこれからは違う。米住宅ローン銀行協会(MBA)のリポートによると、米住宅市場は「住宅不足」から、「買い手不足」の時代に移る見通しだ。 米議会予算局(CBO)は、2030年以降の米国では死亡者数が出生数を上回ると予測している。またトランプ政権が移民流入を抑制しているため、人口減少と世帯形成の鈍化が現実味を帯びている。

リポートを共同執筆したMBAのチーフエコノミスト、マイク・フラタントーニ氏はこの先10年はまったく異なる景色になると話す。「急速な世帯形成の時代から、減速時代のへと移っていく」と述べた。

一方で、将来の移民政策や雇用環境次第で見通しは変わる可能性もある。

足元の住宅市場では、アフォーダビリティー低下が依然最大の課題で、若年層は購入だけでなく賃貸も難しい状況が続く。

この問題はいまや党派を超えた共通課題となっている。先月には共和・民主両党が協力し、手頃な住宅の不足解消と住宅購入者・賃借人の負担軽減を目的とする超党派の住宅法案を可決した。しかし、トランプ大統領が直前になって署名を取りやめたため、法案は宙に浮いた。

それでも超低金利や人口増加など、かつて住宅市場を支えた要因は反転しつつある。住宅ローンの30年固定金利は6%台半ば、出生率は過去最低となった。ベビーブーマー世代の高齢化に伴う住み替えや相続による売却で供給が増える上に、移民減少も需要冷え込みに拍車をかける。強制的な国外退去の増加によって、2025年には移民の純流入が半減した。今年はさらに落ち込む可能性が高い。

すでに供給は一部地域で需要を上回り始めている。 テキサス州やアリゾナ州、フロリダ州などのサンベルト地帯では在庫が積み上がった。需要が冷え込み始めた2024年、集合住宅の完成戸数が38年ぶりの高水準となった結果、2025年の賃貸空室率は7.3%へ上昇した。

フラタントーニ氏ら共同執筆者は、人口減少によって「住宅供給の適正水準」という考え方が根本から覆されると警告する。MBAは住宅価格の上昇率が今年1%にとどまり、来年から2年間は横ばいと予測しており、住宅ローン需要も弱まるとみている。

ハーバード大学の住宅共同研究センターも需要鈍化を確認しており、2025年の世帯増加数は110万世帯と、2021年の200万世帯から著しく減速した。同センターで研究に携わるアレクサンダー・ハーマン氏は「住宅需要の減速は避けられない」と述べ、「これは現実に起きていることだ」と指摘した。

ただし、全米低所得住宅連合によると、低所得層向け住宅は依然深刻な不足状態にある。極めて低所得の世帯1100万世帯が、手の届く住宅380万戸を巡って競争している。

アリゾナ州ツーソンの住宅建設現場

住宅コンサルティング会社ゾンダのチーフエコノミスト、アリ・ウルフ氏は数カ月前、顧客向け会合で厳しい見通しを示した。その際、ある住宅建設会社から投げかけられた質問が、同氏の印象に残った。

「雇用の伸びも人口の伸びも鈍いなら、われわれはどうやって事業を成長させればいいのか」というのが、その問いかけだ。

ウルフ氏はそれ以来、この問いに答えるための分析を進めている。長期的な住宅需要の見通しに基づいて全米約100の都市圏をランキングする指数を作成し、住宅建設会社に説明して回っている。

米国で不法の移民取り締まり強化が始まった当初、住宅建設会社が最も懸念したのは、住宅の骨組み工事や基礎工事を担う労働者を失うことだった。しかし、その後アパート建設が減少したことで、労働力不足への圧力は和らいだ。

ウルフ氏は「当初は労働力不足が最大の打撃になると考えていた」と述べた上で、「実際に最大の問題となったのは、住宅需要だった」と語った。

原題:Low Birth Rate Risks Creating US Housing Glut Over Coming Decade(抜粋)

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