BEIが低水準であることが、債券市場の安心材料

7月7日の米国債券市場では、原油価格の上昇によってインフレ懸念と利上げ観測が強まり、イールドカーブ全体の金利が上昇した。長期金利は前日比+8.2bp、2年金利は同+7.5bpとなった。10年実質金利は同+6.1bp、10年BEIは同+2.1bpだった。FRBが6月FOMCでタカ派的な姿勢を示したことから、原油価格の上昇はストレートにインフレ予想の引き上げにつながりにくい。すなわち、原油価格の上昇⇒短期的なインフレ圧力⇒利上げ観測の高まり⇒実質金利の上昇、というメカニズムが働いている。実質金利だろうが、BEIだろうが、長期金利を押し上げることに変わりはない。しかし、インフレ予想(BEI)が安定しているということは、コストプッシュ型のインフレ圧力が賃金上昇などを通じて二次的・三次的なインフレに波及することは予想されていないということである。この日はややまとまった幅で金利が上昇したが、金利上昇圧力は続かないだろう。

「骨太」修正でガス抜きが図られても、市場の不信感の払しょくは困難

朝日新聞は7月7日、「骨太原案の金融政策の記述、政府が一部修正検討 金利上昇に配慮か」との記事を配信し、「今年の『経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)』の原案について、政が金融政策に関わる一部記述の修正を検討していることが7日わかった」と報じた。8日に更新された記事によると、「政府が7日に与党に示した修文案によると、原案では、2カ所の記述のうちの1カ所にあった『《安定的な物価上昇》に資する適切な金融政策』との説明の文言を、もう1カ所にも加えた」という。「適切な金融政策」だけだと、「(物価の安定よりも経済の拡大を重視した)適切な金融政策」と読まれてしまうことを防ぐことが目的だろう。この背景について朝日新聞は、「内閣府関係者は『表現をそろえるための事務的な調整』としているが、政府関係者は『(金融市場に)誤解されているから入れたと聞いている』と話した」と報じた。

他方、ロイターは7日、「マクロスコープ〕円安・債券安の「骨太相場」、自民・官邸の危機感薄く 市場への不信も」との記事を配信し、「政府関係者はロイターの取材に、高市早苗首相やその周辺に、市場への不信と金利上昇への楽観論が広がっていると明かす」と報じた。具体的には、骨太の原案に対して、「『市場の信認確保に配意しつつ、通年の国債発行額などを具体化する』との文言に多くの議員がかみついた」とされ、「『国債発行のリミッターを設けるものではない旨を加筆してほしい』『概算要求で各省庁が推し進める予算をしっかり確保できる環境を整えてほしい』などの要望が相次いだという。その上で、「金融市場への配慮を求めた意見も出たが、多数派とは言えなかった」という。

骨太の方針に関して、金利上昇を懸念しているという朝日新聞の報道と、楽観視しているというロイターの報道は、方向性が真逆のように読める。財政リスク(金利上昇リスク)に対する見方は分かれているのだろう。

もっとも、楽観的な見方を報じたロイターは「市場が荒れたことに、骨太策定に携わった関係者の一人は『市場参加者は本当に原案をちゃんと読んでいるのか』と首をかしげた。別の関係者も『市場がネタにして遊んでいるだけのように見える』と不信を募らせている」とも報じている。これらの報道を総合して考えると、政府は財政リスクや金利上昇を大きな問題とは考えていないものの、市場が勝手に懸念していることを問題視しているということだろう。その上で、仕方がないので骨太の方針の記述を一部変更して、ストレスを抱えた債券市場がガス抜きをするきっかけを与えようという流れなのだと考えられる。

そして、このような構図が市場で見透かされてしまう場合、市場のリスク認識はあまり改善しないだろう。高市政権は市場を無視しているわけではない、という意味では安心材料と言えそうだが、財政リスクや円安圧力に対する高市政権の対応は後手に回りそうだという不安は拭えない。

確かに、6月5日に成立した26年度補正予算は物価高対策の拡充にとどまるなど、高市政権において財政拡張路線が加速しているとは言えない。高市政権は積極財政の姿勢をかなり抑制している(我慢している)と言え、市場で財政リスクが指摘されるのは筋違いだと考えている可能性が高い。しかし、市場や世論はイメージで動くことは少なくない。この構図は、岸田元首相が「増税メガネ」と揶揄されたことと同じである。結果、岸田政権はコロナ後の景気回復局面にありながらも大型の補正予算を続け、24年6月には物価高対策として計4万円の「定額減税」を実施した。これらは財政緊縮派という評価を覆そうとした結果だろう。これまでの高市首相の発言は、岸田元首相の発言よりも踏み込んだものが多い。高市政権は一段と市場に手足を縛られることになりそうである。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)