ある年代以上の人なら、学校の校庭などでテレビゲームのカセットを交換した記憶があるだろう。当時の新作ゲームは1カ月分の小遣いを超えるほど高価で、貸し借りや交換はゲームを楽しむ上で欠かせないものだった。

だが、ゲームは貸したり借りたり、あるいは所有したりできるものだという考え方は、間もなく過去のものになりそうだ。ソニーグループは、家庭用ゲーム機「プレイステーション5(PS5)」のディスク版新作ソフトの生産を終了すると発表した。2028年1月以降に発売されるタイトルはデジタル版のみになる。

今回の発表を受け、ファンや開発者から瞬く間に反発の声が上がった。政府による情報統制などをテーマとする「メタルギア」シリーズで知られるゲームクリエーター、小島秀夫氏は、その空気を端的に表現した。

「デジタルデータが個人の意思で所有できなくなる」と述べ、業界がデジタル化へとかじを切り始めた2021年に投稿したコメントを最近リポストした。その中で、「私たちが愛してきた映画や本、音楽に自由にアクセスできなくなる」ともつづっていた。

一方、ドミノ・ピザの英国X公式アカウントは、「デジタルピザ」を売るようなものだと冗談めかして投稿した。

もっとも、それは少々言い過ぎだ。ソニーGの決定には十分合理的な理由がある。ただ、その恩恵を最も受けるのはソニーG自身だ。他のゲーム会社と同様、開発費の膨張やユーザーの可処分時間を巡る競争の激化、さらにメモリー価格の高騰という課題に直面している。ダウンロード版は流通や在庫管理のコスト、小売店へのマージンが不要となるため、利益率がパッケージ版より高い。

こうした懸念の多くは過剰なものでもある。かつて友人から借りたゲームソフトは差し込めばすぐ遊べたが、現在のディスクは、ゲームを起動する前に必要となる数百ギガバイトものデータをダウンロードするためのキーに近い存在になっている。

実際、現在販売されるゲームの大半はすでにデジタル版であり、こうした流れはここ20年にストリーミング配信へ移行した映画や音楽と軌を一にしている。

11月に登場予定で、史上最大級のヒットが見込まれる「グランド・セフト・オートVI(GTA6)」の発売元も、ダウンロード専用になると明らかにしている。PCゲーム市場は10年以上前から同じ流れをたどり、現在はバルブのゲームプラットフォーム「Steam」をはじめとするオンラインストアが主流だ。パッケージ版になじみの薄いデジタルネイティブ世代の多くは、この変化を気にしていない。

だが、ファンは業界に影響を及ぼす数少ない手段の一つを失おうとしている。そして、その業界は多くの利用者が望まない方向へと進みつつある。ソニーGの決定には明確な弊害もある。

最大の問題は、競争が事実上失われることだ。PCでは、Steamが気に入らなければエピック・ゲームズ・ストアやGOGを利用できるが、PS5ではソニーGが唯一の販売事業者となる。

私がパッケージ版を好む理由は単純で、友人に貸したり、インターネットで売却したりできるからだ。私は毎年発売される「コール オブ デューティ」のキャンペーンモードを一気に遊び終えた後、購入額に近い価格で売却することが多い。ソニーGの決定は、中古市場を完全に終わらせることになる。

映画や音楽の多くがストリーミングに移行したとはいえ、ブルーレイディスクの映画やCDのアルバムは今でも購入できる。新型コロナウイルス禍後にビンテージゲームの中古市場が活況を呈したことが示すように、コレクションを楽しむ人は少なくない。紙の書籍でさえ、近年では人気が持ち直している。電子書籍の大きな欠点の一つは、友人に本を貸せないことだ。

ユーザーが購入したコンテンツのライブラリーが消えてしまうとの懸念も決して杞憂(きゆう)ではない。ソニーGはこれまでもライブサービス型ゲームの提供を終了したことがあるほか、映像配信サービスでは、購入済みのデジタル作品であっても視聴できなくなる場合があることが明らかになった。

ソニーGは最近、権利契約上の問題を理由に、「ターミネーター2」をはじめとするStudioCanal作品500本超について、購入済みのユーザーも視聴できなくなると発表している。

ファンがかつてないほど懐疑的になる中、ソニーGはユーザーに自社を信頼するよう求めている。すでにファンは値上げの波に直面している。GTA6の価格は80ドル(約1万3000円)と、数年前まで主流だった60ドルを大きく上回る。メモリーチップ不足による影響でゲーム機本体も値上がりし、米国で販売されるPS5の価格は6年前の発売時と比べて30-50%高くなっている。

さらに、人気ゲームスタジオの閉鎖や、何でもサブスクリプション化しようとする業界の動きも、ファンの不満を募らせている。

こうした反発にもかかわらず、方針が転換される可能性は低いだろう。ソニーGはディスクドライブ非搭載のPS6を視野に入れているとみられ、マイクロソフトの次世代ゲーム機も同様の方向に進むとの観測がある。ただ、売り上げの約半分を今なおパッケージ版が占める任天堂が、近いうちにこれに追随するとは考えにくい。

ソニーGがディスクを廃止するのであれば、ディスクがユーザーにもたらしてきた権利に代わる仕組みを用意する、あるいは失われる権利を別の形で補う必要がある。

その手本はすでに存在している。ゲームユーザーは、使いやすさや返金手続きの容易さ、充実したセールを理由にSteamストアを高く評価している。ソニーGもこれに倣い、旧作タイトルを継続して提供することを約束するか、少なくともゲームを後世に残そうとするファンと協力すべきだ。

時代は変わる。校庭で交換したゲームカセットは、箱入りのディスクとなり、やがてサーバー上のコードへと姿を変えた。次の世代は、企業の許可を得ることなく、ゲームを自由に貸したり譲ったり売ったりできる時代を知らずに育つだろう。だが、そのことを気にする人は少ないのかもしれない。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Sony Hits Eject on the Era of Owning Games: Gearoid Reidy(抜粋)

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