(ブルームバーグ):ウォール街がミーム株ブームに沸いたのは2021年だった。個人投資家がソーシャルメディア上で結集し、有名なヘッジファンドをショートスクイーズ(踏み上げ)に追い込むための売買戦略で協調した。
その成功は金銭面だけにとどまらず、弱者が絶対的な強者を打ち破る「ダビデとゴリアテの戦い」として称賛された。
だが、それは小競り合いに過ぎなかった。現在の個人投資家と機関投資家の対立は、オンライン掲示板のレディットで活動するいわゆる「デジェン(degen)」と呼ばれる投機的なトレーダーや一部の攻撃的なヘッジファンドをはるかに超える広がりを見せている。
デジェンとは、リスクを取るカルチャーを反映した「degenerate(退廃する)」のネットスラングだ。
今では中間所得層の家計が、AIによる雇用への脅威を上回る資産形成を目指して積極的に資産運用を行う一方、資産運用会社は業界の従来の常識に従ってリスクを抑え、ポートフォリオのリバランス(資産配分の調整)をしている。
この緊張関係が最も顕著で、かつ把握しやすいのが、今年極めて好調な韓国と台湾の株式市場だ。海外の機関投資家は保有株を1100億ドル(約18兆円)余り売却したが、その穴を国内の個人投資家が埋めている。

機関投資家が売りに回っているのは、AIインフラ関連株の放物線的な上昇によって集中リスクが高まっているためだ。特にMSCI新興市場指数は構造的な変化を経験している。
台湾積体電路製造(TSMC)と韓国のサムスン電子、SKハイニックスの3銘柄だけで指数全体に占めるウエートは30%を超え、年初の18%から大きく上昇した。皮肉なことに、この構成比では世界2位の経済大国である中国は、新興国市場の中で3番目の規模にまで後退している。
スマートマネー
一方、個人投資家は少数の銘柄への集中をそれほど気にしていない。むしろ積極的に後追いし、リターンを拡大するために単一銘柄のレバレッジ型上場投資信託(ETF)を購入している。
さらに、現代ポートフォリオ理論(MPT)が推奨するような幅広い指数連動型ファンドを保有するだけでは、もはや資産を守るには十分ではないことも明らかになっている。その理由は、市場をけん引する顔ぶれが変わったためだ。
米国の大規模クラウド事業者、いわゆる「ハイパースケーラー」の設備投資拡大によって、これまでの「マグニフィセント(壮大な)セブン」は利益を生み出す存在から、巨額投資を迫られる「マレフィセント(有害な)セブン」へと姿を変えた一方、半導体サプライヤーは1兆ドル規模のAI向け投資ブームの恩恵を受けている。

こうした変化は、運用業界に根本的な問いを突き付けている。世界が地殻変動のような変化を迎える中で、ポートフォリオ運用の柱である分散投資は依然として意味を持つのだろうか。
従来型の運用会社は、今年は恐らく市場平均を下回る運用成績となっている。年初に韓国株の比率を引き下げたファンドマネジャーが取り逃したものを見れば明らかだ。サムスン電子の株価は年初来で3倍近くになり、SKハイニックス株は4倍ほどの水準に上昇している。
また、集中投資型ポートフォリオはいずれ失敗すると決めつけるのも誤りかもしれない。英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)がまとめたデータによると、資産家のクリス・ホーン氏率いるチルドレンズ・インベストメント・ファンドは、運用益ベースで史上最も成功したヘッジファンドの一つだ。
同氏は約770億ドルを世界のわずか15銘柄に投資して運用している。そう考えると、分散投資は十分な調査を行わず、自らの投資判断に確信を持てないファンドマネジャーの言い訳のようにも見えてくる。
動きの遅い年金基金の世界でも、再び「ダビデ」が優勢になりつつある兆しが見え始めている。
韓国の国民年金公団(NPS)は5月下旬、好調な保有銘柄を重視するため、今年の国内株式の配分目標を引き上げた。運用資産1兆ドル規模のNPSは、サムスン電子の7.9%、SKハイニックスの8.1%を保有する韓国株式市場最大の投資家だ。
一方、米最大の年金基金である約6000億ドル規模のカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)はさらに踏み込んだ。株式、債券、プライベートエクイティー(PE、未公開株)といった固定的な資産配分を見直し、最良のリターンを追求する「トータル・ポートフォリオ・アプローチ」を採用する。新戦略は7月に始動する。
言い換えれば、敗色が濃くなる中で、現代の「ゴリアテ」である機関投資家は、最適なポートフォリオとは何か、さらに運用成績を測るベンチマークが依然として妥当なのかを見直し始めている。
もちろん、個人投資家が市場の主導権を握れば、株式市場の変動性は今後さらに高まる可能性が高い。例えば韓国では、レバレッジ型ETFに関連するデリバティブ(金融派生商品)取引が日々の価格変動を大きくしている。
それでも、個人投資家が株式市場へ直接参加する流れは、機関投資家にとって歓迎すべき警鐘だ。
イラン戦争の勃発時には、急落局面で素早く押し目買いを入れる個人投資家の行動が優位性をもたらし、さらにAI関連のピック・アンド・ショベル(インフラや装置、素材)銘柄を積極的に選別したことが、その利益を一段と押し上げた。果たして本当のスマートマネーはどちらなのだろうか。
(シュリ・レン氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア市場担当コラムニストです。同氏は投資銀行に勤務した経歴もあり、米経済紙バロンズでは市場担当の記者でした。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:An Epic David vs. Goliath Stock Battle Is Underway: Shuli Ren(抜粋)
もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.