世界的なAIブームの恩恵を享受している韓国の李在明大統領は、発展が遅れている南西部を世界的な半導体拠点へと変える計画に政権の命運を懸けている。

サムスン電子とSKハイニックスの経営陣を従え、政府閣僚は6月29日、少なくとも総額1350兆ウォン(約141兆円)の民間設備投資計画を発表した。このうち5000億ドル超は、首都ソウルから数百キロ離れた湖南地域での新たな半導体工場建設に充てられる。湖南は李氏率いる与党の支持基盤でもある。

生活不安の高まりを背景に、就任から約13カ月が経過した李氏の支持率は世論調査で低下傾向にある。このため李氏は、AIブームが生み出す富をより幅広く行き渡らせる取り組みを強化している。

ただ、経済的な合理性は必ずしも明確ではない。既存の半導体工場から遠く離れた地域で進む企業の大規模投資を支えるインフラを、政府がどのように整備するのかという疑問が残る。

ソウルのシンクタンク、ツァイトガイスト研究所のディレクター、エオム・キョンヨン氏は「発表することと、実際に用地を確保してインフラを整備することは別問題であり、それには時間がかかる」と指摘。「トランプ氏の手法に少し似ている。まず大きな話題を打ち出して世論やメディアの関心を集め、その後で結果への対応を考えるというやり方だ」と述べた。

ギャラップ・コリアが6月26日に公表した世論調査によると、李氏の支持率は就任以来最低となる51%に低下した。経済運営への不満が高まっていることが背景にある。

半導体輸出の急増によって韓国経済は、富裕層と貧困層の経済格差など経済の二極化が進む「K字型」の様相を強めている。半導体業界で働く人や株価上昇の恩恵を受けた人々は潤う一方、それ以外の人々は取り残されている。

韓国銀行(中央銀行)は、IT部門が今年の経済成長率を約0.4ポイント押し上げるとの見方を示している。同時に業種間の格差拡大によって、表面的な経済成長率と国民が実感する景況感との間に乖離(かいり)が生じる恐れがあると警告している。

サムスン電子とSKハイニックスは、スマートフォンや電気自動車(EV)、AIデータセンターのサーバーに至るまで幅広く使われるメモリー半導体の世界最大の供給企業だ。今年、両社の株価はピーク時には3倍超まで上昇したが、その大幅な上昇により、AIを巡る市場心理の変化に対して一段と変動しやすくなっている。

AIブームの恩恵が全国に十分行き渡っていないとの懸念が強まる中、韓国当局は対応策を急いでいる。地域間の成長格差の是正は重要課題となっている。

韓国人口の約半数が居住する首都圏への人口および資源の集中は、地方の急速な人口減少やソウル首都圏の住宅市場の過熱など、韓国が抱える構造的課題の主要な要因として長年指摘されてきた。

南東部には、現代自動車が数万人を雇用する自動車産業や、韓国貿易の大半を担う巨大港湾の釜山港がある。一方、南西部は比較的開発が遅れ、賃金水準も低く、若い人材の流出が続いている。

李氏は6月30日、南西部を新たな半導体拠点に指定した理由について、隣接する南東部の人口は南西部の2倍以上であり、それは長年にわたる地域間格差の積み重ねを反映したものだと説明した。湖南地域は民主党の牙城として知られ、同党候補は選挙で圧倒的な得票を重ねてきた。

李氏はソウルで開かれた投資計画の発表式典で「均衡ある国土発展は、もはや単なる政策目標ではない。国家が生き残るための戦略となっている」と強調した。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の見方

より分散した生産モデルは、スピードや歩留まり管理、インフラ調整を難しくする可能性がある。韓国が、先端AI半導体の生産に不可欠な産業の緊密な連携を損なうことなく、地域間の均衡を実現できるかが試金石となる。

エコノミストのヒョソン・クォン氏

計画が成功すれば、地域の姿を一変させるだけでなく、李氏が自身の路線を継ぐ後継者へ政権を引き継ぐ後押しとなる可能性もある。李氏は任期終了後に再開される可能性がある複数の裁判を抱えており、歴代の韓国大統領と同様に法的問題へ直面するリスクがある。

この巨大プロジェクトの構想は、高市早苗首相が打ち出した総額約370兆円の投資構想に続く動きだ。日本政府は民間と連携し、歴代政権では例のない規模と範囲を掲げている。

韓国テクノロジー企業による巨額投資は、AIに不可欠なメモリー半導体分野で韓国の優位性を維持するとともに、長期的な国家安全保障を確保したいという政府の強い意向を示している。投資が継続すれば、経済への大きな追い風にもなる。

南西部を選んだ現実的な理由の一つは電力事情とみられる。ソウル首都圏では電力供給の制約が強まる一方、南西部には発電余力がある。

政府はまた、半導体工場が首都圏に集中していることは地政学上のリスクだと指摘した。北朝鮮が軍備増強を加速させる一方、韓国による緊張緩和の働きかけにも応じていないためだ。

台湾では、高度な半導体生産が集中していることへの懸念があり、台湾積体電路製造(TSMC)は先に日本で先端半導体を生産する計画を発表している。

ただ、この巨額投資計画が李氏の支持率回復につながるかどうかは不透明だ。南西部以外の地域では、新たな計画から取り残されたとして不満の声がすでに上がっている。最大野党「国民の力」は、政府が事実上企業に圧力をかけたと批判しているが、大統領府はこれを否定している。

原題:Lee’s $880 Billion AI Bet Ties Legacy to South Korea Chip Boom(抜粋)

--取材協力:Heesu Lee、Yasufumi Saito.

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