米連邦準備制度理事会(FRB)の議長に先月就任したケビン・ウォーシュ氏の船出は、外国為替を巡り米国の中央銀行が常に国際市場の利益を最優先するわけではないことを改めて思い起こさせる厳しい現実を突き付けた。

ウォーシュ氏はインフレ抑制に断固として取り組む姿勢を示している。初めて主宰した先週の連邦公開市場委員会(FOMC)会合で、市場の予想以上にタカ派的なスタンスを示し、FOMCメンバーらも年内の利上げに傾きつつある。

トランプ米大統領が望む金融緩和への理解を就任前に示していたウォーシュ氏の姿勢からすると意外な展開だ。これを受けてドルは急伸し、当面は相対的な強さを維持する公算が大きい。それは苦境に立つアジア通貨にとって最も望ましくない。

アジアは輸出依存度が高く、物価が抑制され消費が堅調な世界一の経済大国、米国を必要としている。ただし、その代償を自ら負うことは望んでいない。

アジアの主要国は通貨防衛のために多額の資金を市場介入に投じ、金融引き締めも実施してきた。FRBによる一息つける環境を歓迎していたはずだ。

新たな現実

特に日本はそうだ。日本銀行は2024年以降に5回の利上げを実施したが、円安に苦しんでいる。ウォーシュ氏がもっと慎重な姿勢を示していれば、1986年以来の安値圏で推移する円にとって短期的な追い風になっていただろう。

政府・日銀はここ数年、幾度も市場介入を実施しており、最近も1ドル=160円を大きく超える円安を阻止するために動いた。市場参加者は19日、追加の円買い介入に警戒を強めていた。ドル・円は直近で161円前後で推移しており、前回の介入を促した4月下旬の水準を超える円安だ。

日本は5月27日までの1カ月間に過去最大となる740億ドル(約12兆円)を投じて円を支えた。高市早苗政権は、この水準を守るためにさらに資金を投入するか、あるいは円安の進行をもう少し容認してから介入するかの選択を迫られている。

先週見られたドル高の勢いを踏まえると、高市政権は6週間前の円買い介入と同じような円相場の押し上げ効果を得られない可能性もある。日本は少し様子を見て、ドル買い勢のポジションが行き過ぎるのを待った方がいいかもしれない。介入は意思だけでなくタイミングも重要だ。

当局はしばしば市場心理の転換を狙っている。ウォーシュ氏の予想外のメッセージを受け、その実現には時間がかかりそうだ。日銀の追加利上げ観測も市場を大きく動かすには至らないだろう。

こうした新たな現実に直面しているのは日本だけではない。ドル高局面はアジア各国に選択肢の見直しを迫る機会でもある。

自国通貨が圧力にさらされているインドネシアやインドも、ウォーシュ氏がもう少し穏健な姿勢を示していれば恩恵を受けられただろう。それは、韓国やフィリピンが求めていたつかの間の猶予にもなったかもしれない。

アジアだけの問題でもない。新興国通貨の中でも今年、特に低迷しているトルコ・リラは、もはや米国だけに頼ることはできない。トルコ中銀総裁の職は不安定で、エルドアン大統領は積極的な金融引き締めを行う中銀総裁をためらうことなく解任してきた。

しかし、エルドアン氏も今や一定の利上げを容認せざるを得なさそうだ。南アフリカ・ランドやチリ・ペソは比較的堅調に推移してきたが、近く市場の支持を失う可能性がある。

最大の痛み

FRBの方針転換による最大の痛みを受けるのは、東南アジアかもしれない。その最前線に立つのはインドネシアだ。インドネシア中銀は、ルピアが過去最安値を更新する中、ここ1年ほど繰り返し市場介入を実施してきた。

ルピアが今月、初めて1ドル=1万8000ルピア台となり、最安値を塗り替え、国債需要が急減したことで事態は深刻化した。その結果、同中銀は緊急の0.25ポイント利上げに踏み切り、18日にも同じ幅の追加利上げを実施した。

異例の措置はひとまず効果を発揮した。インドネシアとしては政策を適切に調整し、信認を回復するため、もう少し時間が欲しかったはずだ。プラボウォ大統領の政権とその政策に対する注視が一段と強まっており、財務相交代の観測も浮上している。

もっとも、ドルも順風満帆とは限らない。トランプ氏が2025年4月に発表した大規模関税と、その稚拙な算出根拠は失策だった。

同氏がウォーシュ氏の前任FRB議長ジェローム・パウエル氏への圧力を強めたことや、クックFRB理事を排除しようとした動きは、中銀の独立性に対する攻撃となった。ドルは昨年、主要通貨に対して8%下落し、一時は市場で「米国売り」が合言葉となった。

それでも、ドルを過小評価すべきではない。長期的な視点を考慮する必要がある。ドルは外為トレーディングや貿易決済、国境を越えた融資の大半を占めている。FRBの政策スタンスが変われば、その影響は世界中に及ぶ。

FRBのウォーシュ時代は始まった。新議長は初の記者会見で、これをFRBの新たな章と位置付けた。アジアは速やかにその意味を読み取る必要がある。

(ダニエル・モス氏はアジア経済を担当するブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。以前はブルームバーグ・ニュースの経済担当エグゼクティブエディターでした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Warsh Fed Era Heralds New Trial for Asia Currencies: Daniel Moss(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp

©2026 Bloomberg L.P.