カナダのスポーツウエア大手ルルレモン・アスレティカは10年余り前に中国へ進出して以来、失策らしい失策をほとんど犯してこなかった。だからこそ、最近のマーケティング上の失態は驚きであり、潜在的な影響も大きい。

ルルレモンが米州に次ぐ第2の市場である中国で速やかに謝罪したことは、多くの課題に直面する事業全体への信頼回復に向けて極めて重要になってくる。

先月、約2000人のヨガ参加者が万里の長城に集まった。ルルレモンが支援してきた交流活動の10周年を祝うイベントに出席したのだ。しかし、イベントの目玉として用意された演目で問題が発生した。

俳優の朱一龍さんが城壁と山並みを背景に巨大な太鼓の前でパフォーマンスを披露した。ところが写真がネット上で拡散されると、それが中国の伝統的な太鼓ではなく、日本の和太鼓ではないかとの疑問の声が利用者の間で広がった。

ルルレモンはコミュニティーを重視する戦略を進めており、こうした交流イベントが中核を成している。この取り組みによって、過度な現地化に頼ることなく、中国市場で独自のブランドイメージを築いてきた。多くの欧米ブランドも同様の手法を取り入れようとしている。

消費の低迷と激しい競争に見舞われる中国市場で、コミュニティー重視戦略は昨年の売上高を29%伸ばす原動力となった。米国での販売不振やブランドの魅力低下を巡る懸念、さらには最高経営責任者(CEO)交代劇の余波に直面するルルレモンにとって、中国は重要かつ明るい市場となっている。

ネット上では、ヨガイベントで使われた太鼓が中国のものか日本のものかといまだに議論が続いているが、ルルレモンが謝罪した判断は正しかった。昨年の売上高全体の16%を中国市場が占めており、謝罪しないという選択肢はなかった。

日中関係が緊張する中、ルルレモンと朱さん、さらには共演した太鼓演奏グループはいずれも厳しい批判にさらされた。高市早苗首相が昨年、台湾への侵攻があれば集団的自衛権を行使できる存立危機事態になり得ると答弁したことで、両国関係が悪化した。

素早く対応

もっとも、ルルレモンが今回の失態を乗り切れると考えられる理由はある。

まず、速やかに謝罪し、問題を長引かせなかったことだ。イベント開催から2週間以上が経過していたが、ネット上の騒ぎが大きくなるまでには時間がかかった。

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報によると、今回の騒動は15日にSNS上で5000万回超の閲覧数を集めるまでに拡大したが、ルルレモンは16日に対応した。迅速な対応は企業イメージへの打撃を抑える助けになるだろう。すでにこの話題はトレンドから外れている。

今回の件は、悪意というより認識不足によるものだったように見受けられる。中国ではこうしたケースでよく見られるように、ネットユーザーは重大な「文化的侮辱」だとして、ルルレモンを厳しく批判した。しかし、中国の太鼓と和太鼓の違いをそもそも見分けられる人は多くない。

同じ過ちを繰り返さず

今回の失敗は、2025年9月にアークテリクスが起こした騒動よりは理解しやすいとも言える。

中国のスポーツウエアメーカー、安踏体育用品が筆頭株主となっているアメアスポーツ傘下のアウトドア用品ブランド、アークテリクスは昨年9月、チベット自治区の自然豊かな地域で花火大会を開催したが、環境破壊への懸念などを招いた。

報道によれば、地元当局者4人が解任され、アークテリクス中国部門の幹部も辞任した。売上高は一時鈍化したものの、その後持ち直した。

売り上げが回復したという流れはルルレモンにとっても心強い材料だ。同社は今後、消費者の信頼と、中国市場を収益拡大の柱として期待する投資家の評価をどう回復するかが問われる。

ルルレモンはこれまでも難局を乗り越えてきた。4月には、米テキサス州で同社製品への化学物質使用の可能性を巡る調査が公表されたことを受け、中国のSNS上でも大きな波紋を呼んだ。

ルルレモンは健康への影響が指摘される有機フッ素化合物(PFAS)を使用していないとすぐに回答。また、新型コロナウイルス禍では、中国国外を拠点とするアートディレクターが不適切な画像を共有したことを受けて謝罪に追い込まれたこともある。

中国でのルルレモンの成功は、有名人の起用や欧米ブランドの知名度によるものではない。長年にわたるコミュニティー形成とブランド管理の積み重ねによるものだ。

だが、好意的な評価が永遠に続くわけではない。ルルレモンは同じ過ちを繰り返さないようにしなければならない。

(ジュリアナ・リウ氏はブルームバーグ・オピニオンのアジア担当コラムニストで、企業戦略や経営をテーマに執筆しています。以前はCNNでアジア担当シニアビジネス編集者を務めたほか、BBCニュースとロイター通信の記者として働いていました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:Lululemon’s China Drum Blunder Comes at Worst Time: Juliana Liu(抜粋)

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