(ブルームバーグ):米人工知能(AI)開発企業が利用量に応じた料金体系へと移行し始めた。まずは日常生活や業務へのAI浸透を優先していた従来の姿勢を転換する。
足元では定額制から、利用量に応じて料金を課す従量課金制を導入する動きが増えている。その結果、ヘビーユーザーはプレゼンテーション資料の作成や電子メールの下書き、複雑なコードの不具合修正などをAIチャットボットやAIエージェントに依頼するたびに、追加費用が発生する見通しだ。
背景には、主要なAI開発企業はモデルの開発と運用のため、半導体やデータセンター、人材に巨額の資金を投じていることがある。ただ、電力料金や携帯電話で一般的な従量制プランに移行すれば、AI技術の利用が一段と選別的なものになる可能性がある。
従量課金制への移行により、米企業はAI関連支出の増加に直面し、費用対効果を改めて検証するよう迫られている。料金体系見直しの動きは、ウーバー・テクノロジーズなどのオンデマンドサービス企業が成長重視の低価格戦略を見直した局面とも重なる。
有力AIスタートアップが相次いで株式市場への上場を目指す中、料金上昇に対するショックが広がり、利用者や企業がAIにどれほどの価値があるのかを改めて見直すリスクもある。
生成AIのビジネスモデルとは
AIチャットボットやAIエージェントのビジネスモデルは、依然として比較的新しく、進化の過程にある。
OpenAIと競合のアンソロピックは2023年、チャットボットの収益化を目的としてサブスクリプション(定額課金)プランの導入を開始した。両社はまず、月額20ドル(約3200円)のプレミアムプランを提供。その後、モデルの利用権限を拡大した複数の料金プランを導入し、最上位プランで月額200ドルとしていた。
OpenAIやアンソロピックなどのAI企業は、セキュリティー対策やデータ管理機能、顧客サポートを強化したチーム向けの法人プランも提供している。料金体系はさまざまだが、通常はアクセス権限を持つ従業員1人につき、月額固定料金を課す仕組みとなっている。
OpenAIは広告付きのプランも導入し始めている。メタ・プラットフォームズやアルファベット傘下のグーグルが数十億人に無料でサービスを提供するために長年採用してきた手法だ。
AI企業の価格戦略はどう変化
AI開発企業は複数の料金プランの提供を続けているが、固定料金で実質的に無制限のアクセスを認めることの妥当性を見直す動きも出始めている。
アンソロピックは需要が急増する中、法人顧客に関して利用量に応じた課金へ移行したと、テクノロジーニュースサイトのジ・インフォメーションが4月に報じた。同社は有料プランの各階層ごとに異なる量の利用クレジットを提供しており、その上限を超えると、利用者や企業は使用量に応じて支払う必要がある。
費用はタスクの内容や利用時間、使用するモデルによって異なる。アンソロピックは、対話型AI「クロード(Claude)」によるウェブ検索1000回当たりの費用を10ドルと推定している。また、マネージド型AIエージェントの利用料は稼働時間1時間当たり8セントとしているが、数百人の従業員が大量のエージェントを同時に常時稼働させた場合、その費用は大きく膨らむ可能性がある。
OpenAIの利用者の間では、AIコーディングエージェントに新たに導入された利用制限に戸惑いの声が上がっている。また、マイクロソフト傘下のギットハブのコーディングツールでも、月間利用枠を超えた後に適用される新たな従量課金制度が利用者の不満を招いた。中には、わずか1日で月間利用枠を使い切ってしまったと訴える利用者もいた。

今なぜ転換するのか
定額料金モデルは、導入初期には理にかなっていた。多くの企業はAIを日常業務にどの程度組み込むべきか、また実績のない新技術にどれだけ資金を投じるべきか判断しかねており、シンプルで手頃な料金体系が求められていたためだ。
しかし2025年後半から2026年初頭にかけて、AIは転換点を迎えた。アンソロピックやOpenAIなどは、ソフトウエアエンジニア向けにコードの作成や不具合修正を行うAIエージェントの開発で大きな進展を遂げ、時には数時間にわたる作業の継続が可能になった。
その後、AIスタートアップ各社は、金融を含むより幅広い業界で業務の効率化を実現するAIエージェントの普及に一段と力を入れ始めた。一方、オープンソースのAIエージェント「OpenClaw(オープンクロー)」も一部で大きな話題となった。利用者のコンピューターを操作し、旅行予約やメール対応、スケジュール管理を行うAIデジタルアシスタントに関して、OpenClawはその可能性とリスクの両方を浮き彫りにした。
こうした中、ヘビーユーザーの一部は突如として、大量のAIエージェントを何時間にもわたって稼働させるようになった。企業側も従業員に対し、トークン(AIモデルが処理するデータの単位)の使用量をできるだけ増やすよう奨励。トークン消費量に基づき従業員を順位付けする社内ランキングを設けるケースまで現れた。「トークンマキシング」と呼ばれるこの慣行は、生産性向上や事業価値の創出につながるかどうかにかかわらず、AI利用を最大化した従業員を実質的に評価するものだった。
一般に、AIエージェントに業務を自動化させることは、単にチャットボットに数段落の文章を生成させるよりも多くの計算資源を必要とする。さらに、AIエージェントを何時間も継続して稼働させれば、その負荷は一段と高まる。AI開発企業は、自社技術をより多くの企業に浸透させるため、追加コストを引き続き負担する選択も可能だが、その戦略にはリスクも伴う。
アンソロピックとOpenAIはいずれも年内の新規株式公開(IPO)を視野に入れており、費用構造や収益化への道筋に対する市場の注目が高まっている。両社はコーディングなど価値の高い業務でAIが有用であることを証明してきた。今後は、半導体やデータセンター、人材への巨額投資を賄えるだけの収益を顧客から得られることを示す必要がある。
AI企業はどう説明?
OpenAIの幹部らは、技術の進化に伴い業界の料金体系も変わる必要があることを認めており、将来的には電力やガス、水道など公共サービスと同様の料金体系になる可能性を示唆している。
ChatGPT部門責任者のニック・ターリー氏は今年、「現時点では、無制限プランは電気の使い放題プランのようなものかもしれない」とポッドキャスト番組で発言。「それは理にかなっていない」と続けた。
同じくサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)も、将来的には「知能が電気や水道のような公共サービスとなり、人々がメーター制で当社から購入する世界」を思い描いていると語った。
一方、ギットハブは、今回の決定について「料金体系を実際の利用状況により適切に対応させる」試みだと説明している。
「現在は、短時間のチャットでの質問と、数時間に及ぶ自律型コーディングセッションが、利用者にとって同じ料金になる場合がある」とブログ投稿で指摘。「背後で増大する推論コストの大部分を負担してきたが、もはや持続可能ではない」とし、「従量課金制はこの問題を解決する」と述べた。
企業顧客の反応は
AI利用の普及やトークンマキシングのような取り組みに加え、料金体系の変更が重なった結果、一部の企業は厳しい現実に直面している。
小売り大手ウォルマートは、業務支援向けの社内AIエージェントについて、従業員の利用に上限を設けた。ウーバーは一部のAIコーディングツールに関して従業員1人当たりの月間利用額をツールごとに1500ドルまでに制限している。トークンマキシングについても、見栄の張り合いに過ぎず、コストばかりかかるとの批判が強まっている。
AI導入支援を手掛けるボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のBCG X部門で最高技術責任者(CTO)を務めるマット・クロップ氏は、「企業が従業員にAI活用を促しているのは正しいことであり、トークンコストの増加は問題ではなく、むしろ当然の結果だ」と話す。
その上で、「とはいえ、AI予算をどのように組むべきかを理解している企業はまだ少なく、従業員もこうしたツールを効果的に使う方法を学んでいる段階にあるため、無駄が生じていることは間違いない」と指摘した。
テクノロジー業界では現在、用途に応じて最適なAIモデルを使い分ける「モデルルーティング」の必要性に関する議論が活発化している。多くの業務では、必ずしも最高性能で最も高価なモデルを利用する必要はないとの見方が背景にある。
クラウドコンテンツ管理サービスを手掛けるボックスの共同創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるアーロン・レヴィ氏は、「トークン予算が運営費に占める割合が今後大きくなるにつれ、モデルルーティングの導入は避けられない」と述べた。
その上で、「近いうちに個々の用途ごとに切り分け、その業務に十分な性能を備えた低コストなモデルへ振り分けられるようになる」との見方を示した。
どのようなリスクがあるのか
顧客がAI関連支出全体を削減したり、より低価格なサービスへ支出を振り向けたりする可能性がある。その結果、AI企業は現実的にどの程度の料金を設定できるのか、改めて見直しを迫られそうだ。
すでに米国のAIサービス大手には競争圧力の兆しが表れている。OpenAIは、アンソロピックが同様の値下げに踏み切ることを見越し、トークン価格の大幅引き下げを検討しているとされる。
トークンベースの課金体系への移行で顧客が価格に敏感になり、DeepSeekやアリババ・グループ・ホールディング傘下の「Qwen」といった中国のオープンウエート型AIプラットフォームに追い風が吹く可能性もある。
これらのモデルは、回答生成時にAIシステムの「ニューラルネットワーク」の使用部分が比較的少ない。そのため、米国製モデルよりも計算資源の消費量が少ない傾向があり、低価格でのサービス提供を支えている。
現時点では、中国勢のモデルは依然として米国の競合企業が提供する最高水準のモデルに及ばない。しかし、専門職の利用者がより安価な代替手段を求め始めた場合、多くの日常的な業務に対する需要を奪い取るだけの性能を備えている可能性が高い。
原題:Why AI’s All-You-Can-Eat Buffet Is Coming to an End: Explainer(抜粋)
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