日本銀行が政策金利の引き上げを決めた先週の金融政策決定会合では、審議委員1人が反対票を投じた。これは、政策対応が後手に回る「ビハインド・ザ・カーブ」を回避するため、政策正常化を進めようとするタカ派に残された時間が限られている可能性を示唆している。

決定会合への出席が今回2回目の浅田統一郎氏は、経済が直面する最大のリスクについて他の委員と異なる見解を示し、政策金利を1995年以来の高水準へ引き上げる決定に反対した。高市早苗首相が指名した初の日銀審議委員である浅田氏は、金融緩和を支持するハト派姿勢を鮮明にした。

Photographer: Toru Hanai/Bloomberg

今回の反対は、植田和男総裁率いる政策委員会で今後起こり得る展開の一端をのぞかせ、1票以上の重みがある可能性がある。今月末には、中川順子審議委員の5年の任期満了に伴い、高市政権に任命されたもう1人のリフレ派が委員に就任する予定。

加えて、最もタカ派とされる委員2人が約1年後に任期満了を迎える。自身もハト派とみられる高市首相は追加の委員を指名することができ、9人で構成する政策委員会の勢力図が大きく変わり得る。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは、「日銀が中立金利に向かって利上げを進められる時間もそれほど長くないかもしれない」と指摘。「来年夏までにできるだけ緩和度合いを縮小していくのではないか」との見方を示した。

高市首相は2月、日銀審議委員に浅田氏と佐藤綾乃氏を指名。両氏はいずれも緩和的な政策を支持するハト派として知られており、2人のうち少なくとも1人はより中立的な人物が起用されるとみていた市場を驚かせた。

この人事を受けて、一部のアナリストは、日銀がビハインド・ザ・カーブに陥るリスクが高まると警告。高市首相が日銀の正常化路線に対する制約要因になり得ることが改めて浮き彫りとなった。

シティグループ証券の中村颯介エコノミストは、浅田氏の反対票は「今後の政策パスにとって重要なハト派材料となる」と指摘。利上げに積極的な高田創、田村直樹両審議委員が来年7月に退任した後、「再びハト派のメンバーが送り込まれる可能性は高く、その場合ボードメンバーの勢力は一気にハト派に傾くことになる」とみる。

もっとも、高市首相がどこまで積極的に自身と考えの近い有識者で委員会を固められるかには一定の制約もありそうだ。田村氏の出身である銀行業界では、長年にわたる低金利環境を問題視してきた経営者が少なくない。高市首相が田村氏の後任に大手銀行出身者を起用しなければ、慣例から大きく外れることになる。

浅田氏はまだ就任数カ月で、経済や物価、金融市場の展開によってこれまでの審議委員同様、見解に変化が生じる可能性もある。6月に退任する中川氏は2021年の就任当初は中道寄りのハト派とみられていたが、4月の決定会合で初めて利上げを支持し、投資家を驚かせた。中川氏の行動は利上げが近いとの観測を強める要因となった。

市場では現在、日銀の利上げペースを半年に1回、またはさらにペースを速めるとの見方が強まっている。6月の会合後にブルームバーグが実施した調査では、エコノミストの5割強が次回利上げを12月と予想。36%が10月を見込んでいる。

政策金利が31年ぶりの水準に達したことで、日銀は今後、政府から公然と、あるいは暗黙の圧力を受ける場面が増える可能性がある。6月会合で利上げを決定する数時間前、城内実経済財政政策担当相は日銀に対し、政府と「緊密に連携」し、適切な金融政策運営を行うこと「強く期待している」と述べた。

一方、政府は、日銀の行動を制約すれば円安をさらに加速させる可能性があることにも留意する必要がある。円相場は対ドルで約40年ぶりの安値圏にある。円安がさらに進めばインフレが加速し、家計の負担は増大しかねない。

米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)を含む主要中銀が金融引き締め姿勢を維持すると見込まれる中、この問題の重要性はさらに高まっている。

ベッセント米財務長官は公の場で、日銀に裁量の余地を与えるよう日本政府に呼び掛けるとともに、植田総裁の政策運営に信頼感を示した。これは、日銀がより速いペースで利上げを進めることをベッセント氏が望んでいることを示唆している。

東短リサーチの加藤出チーフエコノミストは、「高市政権との間の摩擦は今後も続くと思われ、利上げペースが急に速まる可能性は低いだろう」と指摘。「とはいえ海外中銀が利上げに傾いていることもあって円安圧力は高まりやすく、それを背景にベッセント長官が利上げが遅い日銀に苦言をまた呈する」と予想。次の利上げは10月とみている。

原題:BOJ Dissent by Takaichi’s Pick Highlights Case for Faster Hikes (抜粋)

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