(ブルームバーグ):米国とイランの第1回和平協議は夜を徹した議論が行われ、「大きな進展」があったと、イラン側が明らかにした。双方は60日以内の最終合意を目指している。
スイス中部ビュルゲンシュトックで21日から22日にかけて行われた協議には、バンス米副大統領やイランのアラグチ外相らが参加。バンス氏は22日にスイスで記者団に対し、イランが国際原子力機関(IAEA)の核査察受け入れに合意したと述べたほか、ホルムズ海峡の開放を維持する仕組みの構築という今回の協議の目標を達成できたと語った。
イランは査察受け入れについて確認していない。バンス氏自身は米国に戻るものの、実務レベルの協議は継続すると説明した。
ただ、解決すべき問題はまだ数多い。とりわけレバノンの親イラン派武装組織ヒズボラとイスラエルの戦争を巡っては、トランプ米大統領がヒズボラに対するイランの支援を問題視し、対イラン攻撃に再び踏み切る可能性があると改めて警告。これを受け、イランは交渉離脱の意思を示したこともあった。
だが、仲介役を務めるカタールとパキスタンが、レバノンの緊張を一定程度緩和させたと、イランのアラグチ外相が22日朝に発言。先週結んだ覚書により、イランの石油輸出に対する米国の制裁免除や凍結資産の解除など、経済的な恩恵を既に受け始めているとも明らかにした。
アラグチ氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「パキスタンとカタールのたゆまぬ仲介努力のおかげで、レバノンの戦争終結に向け大きな進展を遂げた」と評価し、「石油・石油化学製品の輸出は制裁適用除外となり、封鎖は解かれ、一部の凍結資産は解除される。イラン向けの大規模な復興・開発計画が始動する」と続けた。

カタールとパキスタンは共同声明で、「さらなる技術的協議に向けた仕組みの創設を含め、前向きな進展があった」と述べた。60日以内の最終合意を目指すロードマップに合意したという。
また声明によると、双方はホルムズ海峡を通過する商船の安全確保を目指し、偶発的な事態や誤認による衝突を防ぐための連絡体制を構築した。さらに、レバノンにおける軍事行動停止の順守を支援するため、当事者とレバノンが参加する「衝突回避調整チーム」を設置することでも合意した。
声明を受け、原油相場は下落。22日の取引で北海ブレント原油は2.6%安の78.5ドル前後で推移している。先週1週間では約8%下落したが、年初来ではまだ30%近く上昇している。トレーダーはこの上昇について、ホルムズ海峡経由の石油や液化天然ガス(LNG)の輸送が正常化するには少なくとも数カ月かかることが主な理由だろうと指摘している。
協議は21日、混乱の中で進められた。トランプ米大統領は同日、レバノンの親イラン派武装組織ヒズボラがイスラエルへの攻撃を続ける場合、対イラン攻撃に再び踏み切る可能性があると改めて警告した。これを受け、イランが協議を中断したとの報道が同国メディアから伝わり、一時情報が錯綜(さくそう)した。
トランプ氏はまた、イランと合意に至らなければ、米国がホルムズ海峡の通航料徴収を開始するかもしれないと、FOXニュースに語った。イラン指導部と自身が直接言葉を交わし、イランがホルムズ海峡を封鎖したら「お前たちはイランに戻ることさえできなくなる」と、罵倒の言葉を交えて話したという。
レバノン戦闘終結が最大の焦点
暫定合意によって米イラン間の敵対行為はいったん停止したものの、今回の協議は長期化する交渉の始まりに過ぎない可能性が高い。今後はイランの核開発能力や、イランへの経済支援などが議題として扱われることになる。
21日にスイスに到着したバンス氏は、パキスタンとカタールの当局者と並んで記者団に対し、「きょうは意見の相違を全て解決する場ではなく、実務レベルの交渉を始める第一歩だ」と述べた。トランプ政権の国際交渉担当であるジャレッド・クシュナー氏とスティーブ・ウィトコフ氏も協議に参加。両氏は対イラン交渉に深く関与している。
イラン側はガリバフ国会議長が代表団を率いた。イランメディアの報道によると、同氏は「集中的な協議」の後、22日にスイスを後にした。
協議に詳しい当局者によると、レバノンでの戦闘終結がスイスでの米・イラン協議の成否を左右する最大の焦点となる。同当局者は機微な情報であることを理由に匿名で語った。交渉が前向きな結果に至るかどうかは最終的にイスラエルの協力にかかっており、レバノンからの撤退が実現して初めて暫定合意を前進させる条件が整うという。
イスラエルは、スイスでの協議には参加していない。レバノン南部から軍を撤退させる案についても、ヒズボラがミサイルやドローン(無人機)で自国の北部領土を脅かしている限り、応じない姿勢を示している。
イスラエルのダノン駐国連大使は軍のラジオ局に対し、ヒズボラの支配地域に「レバノン軍が進駐したことを確認できる場合のみ、イスラエル軍は撤収する」と述べ、「我々にとって、現地で実際に何が起きているかという現実が重要だ」と主張した。
関係者によると、イラン側代表団は今回の協議が国内でどう受け止められるかを強く意識している。そのため、協議開始前にテレビ中継された冒頭発言には姿を見せなかった。合意前に米国代表団と握手を交わす場面が映し出されるのを避けたかったためだという。
この関係者はまた、イランと米国の代表団の間には認識や期待を巡る大きな隔たりがあり、その溝を埋める試みが協議を複雑にしていると指摘した。
イランは20日、イスラエルがレバノンでの停戦に違反したと非難し、世界のエネルギー供給の要衝であるホルムズ海峡を再び封鎖すると表明した。ただその発表後も数百万バレルの原油が同海峡を通過し続けた。
17日にトランプ氏が署名した覚書では、米国とイランに60日間の交渉期間が与えられている。ただ、合意には延長条項も盛り込まれている。
原題:Iran Cites ‘Major Progress’ After All-Night Talks With US (1)、Vance Says Iran Has Agreed to Invite IAEA Nuclear Inspectors、Vance: Hormuz to Stay Open With Mechanism Set Up During Talks(抜粋)
--取材協力:Sara Gharaibeh、Weilun Soon、Jennifer A Dlouhy、Dan Williams、Fiona MacDonald.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
©2026 Bloomberg L.P.