モバイルファースト戦略と「ラッキンコーヒー」の逆襲
ネットでの閲覧や購入を好む若い世代の消費行動は、中国の消費者にとってはすでに当たり前の習慣です。米国では小売決済におけるスマホ決済の割合は約40%に留まりますが、中国の消費者は遥かに進んでいます。モバイルファーストのEC時代に成長を遂げた一世代の中国企業は、巨大な国内市場で戦略を磨き上げてきました。

その波は、毎朝のコーヒー市場にも押し寄せています。「Luckin Coffee(ラッキンコーヒー)」は中国最大のコーヒーチェーンへと成長し、2023年には売上高で初めてスターバックスを抜き去りました。2024年10月時点で国内店舗数はスタバの3倍に達し、その差は広がる一方です。

彼らの強みは徹底したモバイル戦略です。1杯わずか1ドルほどで提供されるドリンクは「モバイルアプリ限定注文」となっており、人件費とコストを大幅に抑えています。そして今、Luckin Coffeeはこのビジネスモデルを米国に持ち込みました。すでにニューヨークに数店舗をオープンし、秋のメニューには米国人に親しまれるパンプキンスパイスを取り入れるなど、自社の成功法則を持ち込みつつ、現地の好みに適応する柔軟さを見せています。
新興国ブラジルへの本格参入と、背景にある「国内事情」
中国企業のビジネス拡大の機が熟している場所は、米国だけではありません。南米のブラジルは、都市部が成長し中間層が増加しているという点で中国の発展プロセスとよく似ています。人口の多くが若く、デジタルツールを生活に積極的に取り入れているため、小売アプリの相性が抜群なのです。

現在ブラジルでは、越境ECアプリである「Temu(テム)」や「SHEIN(シーイン)」が絶大な人気を誇っています。さらに、フードデリバリー企業の「Meituan(美団)」は、今後5年間で10億ドルを投じてブラジルでの事業開始を計画しています。これはルラ大統領が北京を訪問し、中国投資の拡大で合意した直後の動きであり、中国政府の強力な後押しを受けての世界展開であることが伺えます。
中国企業がこれほどまでに海外を目指す背景には、国内市場における生産者物価のデフレや激しい価格競争という圧力があります。企業が生き残るためには、より高い価格設定で高い利益率を確保できる海外市場へ進出するしか道がないという切実な事情もあるのです。