・米国などで中国ブランドが躍進、新たなソフトパワーの台頭
・モバイル戦略を武器に、ブラジルなど新興国市場へ本格参入
・地政学リスク等の課題を抱えつつ、世界的な存在感は拡大へ
「世界の工場」から「ソフトパワーの発信地」へ
靴やスマートフォンなど、私たちが日頃から愛用する製品の多くは「中国製」ですが、これまでは「デザインや企画は別の国で行われている」というのが一般的な定説でした。かつての中国が製造していたのは、いわゆる付加価値の低い下請け製品ばかりであり、そこから文化的な影響力である「ソフトパワー」を得ることは困難でした。
しかし今、その定説が大きく変わりつつあります。中国企業は世界のバリューチェーンの階段を登り、自然とソフトパワーを高めています。その代表例が、アートトイブランド「Pop Mart(ポップマート)」であり、世界的なゲーム賞に輝いたアクションRPG『Black Myth: Wukong(黒神話:悟空)』です。
かつての戦後の米国企業がそうであったように、中国経済は世界における存在感を増し、さまざまな海外市場へ投資する絶好の好機を迎えています。中国ブランドは今、世界の消費者を魅了しながら、形のない「文化」や「影響力」という領域にも深く貢献し始めているのです。

TikTokが牽引する若者文化と「Pop Mart」の熱狂
この新たなソフトパワーを象徴するのが、Pop Martが生み出した「Labubu(ラブブ)」というふわふわした不思議な人形です。米国をはじめとする世界中の人々が、動画共有アプリ「TikTok」でLabubuの開封動画を投稿し、購入品を自慢しています。一般の若者から、BLACKPINKのリサのような大物セレブに至るまで、このブームに乗ったことがブランドに莫大な利益をもたらしました。

約10年前に北京のたった1店舗から始まったPop Martは、現在では全米各地に店舗を展開しています。沿岸部の大都市だけでなく、オハイオ州のような内陸部にも進出しており、その影響力の広がりは計り知れません。2024年以降、同社の年間収益は3倍以上に増加し、全体の売上高は最大で250%も成長しました。
この成功の裏には、中国の主要な文化的輸出品であるTikTokの存在があります。米国だけで月間1億7000万人以上が利用し、YouTubeやInstagramと肩を並べるSNSのトップに君臨するTikTokは、若い米国人世代を完全に取り込み、彼らに初めて「中国ブランド」に触れさせる巨大な入り口となっているのです。
