FOMCはタカ派ドットチャートが注目されたが、パフォーマンスの面も

FRBは6月16-17日のFOMCで、政策金利を維持することを決めた(FF金利誘導目標は3.50-3.75%)。ドットチャートが年内の政策金利見通しについてタカ派的なものとなったことが今回の特徴である(長期的にはそれほどタカ派ではない)。なお、声明文の形式が変わったことなど、ウォーシュ議長の新体制となった最初のFOMCで一定の変化があった。ウォーシュ議長の会見は言質を与えない慎重な印象だった。

声明文については、利下げバイアスを示す「追加調整」(additional adjustments)という文言が削除されるかどうかが注目されていたが、フォワード・ガイダンスの文章全体が削除される結果となったため、ハト派的ともタカ派的とも言えない。

雇用の評価はややタカ派的だった。具体的には「雇用の伸びは労働人口の増加に追い付いており、失業率はあまり変化していない」(声明文の訳はロイター。以下同)とされた。前回は「雇用の伸びは平均して低水準のままで、失業率はここ数ヵ月間、あまり変化していない」とされていたが、雇用の伸びが低水準であることは労働力人口の減少による面があるという見方が一般的となってきたため、労働力人口を考慮した表現になったのだろう。雇用の伸びが「低水準」という評価を続けることが望ましくない(堅調だというニュアンスに変えたい)という考えがあったとみられ、ややタカ派的である。

インフレの評価は、ほとんど変化がなかった。具体的には「インフレ率は、エネルギーを含む特定の部門で価格上昇をもたらした供給ショックを部分的に反映して、委員会の2%の目標に対し高止まりが続いている」とされた。前回の「インフレ率は、世界的なエネルギー価格の最近の上昇を部分的に反映して高止まりしている」と変わらない表現である。

市場で注目されたのが、ドットチャートである。ウォーシュ議長がドッツを提出しなかったことも興味深いが、26年中に1回以上の利上げを予想した票が半数の9票となったことが注目された。利下げ予想は1票のみで、据え置きが8票、1回利上げが3票、2回利上げが5票、3回利上げが1票となり、複数回の利上げを予想するドッツも少なくなかった。もっとも、27年のドッツは中央値が3.50-3.75%となり、26年に利上げを実施したとしても、27年は利下げに転じるという見方も多いことが分かった。26年に利上げがあったとしても、それは一時的な対応であるということだろう。Longer runも中央値・最頻値ともに3.0%と、前回から変わらず、足元のインフレは一時的であるというFRBの基本的なスタンスは変わっていないと言える。タカ派懸念は徐々に落ち着いていく可能性が高い。

ウォーシュ議長は会見でタカ派的なドットチャートについて問われ、「はっきり言って、彼らは『これが確実だ』とは言っていなかった」(ウォーシュ議長の発言の訳は筆者。以下同)と述べた。ドットチャートに否定的なウォーシュ議長らしい解釈と言えるが、利上げを予想したメンバーも、それほど自信を持っていないことは事実だろう。今のFRBは、(a)おそらくインフレは一時的だが、(b)インフレに対応するスタンスを示しておかないと信認が低下する、というジレンマの状況にある。そのため、利上げに慎重な意見もあれば、パフォーマンスとして利上げを実施しておくことが望ましいという意見もあるのだろう。重要なのは、(b)信認維持のための利上げということであれば、実際に利上げを実施する必要はなく、ドットチャートにおいてそのスタンスを示すことで目的を達成することも可能である。そのため、今回のドットチャートで利上げ予想を出すことで、結果的に利上げは不要になると考えているメンバーもいるかもしれない。また、利下げを望んでいるとされるウォーシュ議長の新体制になったことから、過度にハト派的だとみられることは避けたいというメンバーもいるかもしれない。このように考えると、ドットチャートはいったい何のためにあるのか、必要なものなのか、というウォーシュ議長の問題意識を理解することができる。

もっとも、ウォーシュ議長はタカ派的な一面ものぞかせた。インフレへの対応について問われ、「市場での石油価格や、卵1ダースの価格が、我々の活動に直接的な影響を与えることはない。 しかし、私たちにはそこで重要な役割がある。それは、石油や牛肉、卵、牛乳などの価格変動が経済全体に波及せず、二次的・三次的な影響を及ぼさないようにすることである」と述べた。現状では、平均時給の伸びや、刈り込み平均など各種基調インフレのデータ、2月末の水準まで低下した長期のインフレ予想(BEI)の状況に鑑みると、二次的・三次的な影響への対応は必要なさそうだが、これらに変化がみられれば、ウォーシュ議長もタカ派的なスタンスを強めることが予想される。なお、トランプ大統領はこの日のFRBの決定に対して、「まあいいさ。どうでもいいよ」(ロイター)と述べた。ウォーシュ議長がトランプ政権にとって都合の悪い行動をしないだろうという信頼感と、イラン情勢が改善する中で原油価格が下落しているという余裕があるのだろう。

ウォーシュ議長がFRBの改革について言及したことで、今後はその動向に注目が集まるだろう。具体的にはウォーシュ議長は「私は、金融政策の全般的な運営において中核となる5つの分野それぞれに、タスクフォースを設置することとした。第一に、FRBのコミュニケーション。第二に、FRBのバランスシート。第三に、既存のデータソースの活用と依存。第四に、変革の時代における生産性と雇用。そして最後に、FRBのインフレ対策の枠組みである」と述べた。特に、コミュニケーションについて注目が集まりそうであり、不確実性の高まりが指摘される可能性が高い。もっとも、前述したようにFRBから開示されたものが戦略的である可能性がある以上、開示が多いことで不確実性が小さくなるとは断言できない。市場が身構えることによってボラティリティが小さくなる面もあるだろう。バランスシート政策の動向以外については、市場に与える影響は限定だろうと、筆者はみている。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)