ペルシャ湾岸諸国ほど、石油とガスを多く生産している地域は世界中どこにもない。その大半は、ホルムズ海峡を通過するタンカーでしか輸出できない。しかし、2月末に米国とイスラエルがイランへの攻撃を開始して以来、この水路は事実上3カ月以上にわたり閉鎖された状態が続いている。

混乱は世界経済に波及している。石油、ガス、その他の商品の供給が圧迫され、価格は戦争前よりも大幅に高騰している。

こうした中、米国とイランが戦闘停止とホルムズ海峡の再開に向けた暫定合意を発表したことで、同海峡を巡る危機は近く緩和に向かうとの期待が高まっている。合意の覚書は6月19日に署名される予定だが、海峡再開が具体的にどのような形になるのか、数カ月にわたる混乱の後に安全な航行が可能なのか、通航料が課されない海域として復元されるのかなど、多くの疑問が残されている。

仮にホルムズ海峡の航行が本格的に再開されたとしても、海峡の両側に滞留している船舶を解消するには時間がかかる。調査会社ケプラーのデータによると、貨物を積載した船舶約300隻がペルシャ湾からの出航を待っており、ほぼ同数の空船が域内に入り貨物を積み込むのを待っている。

ホルムズ海峡を巡る米国とイランの合意内容は?

合意署名後、イランはホルムズ海峡を再開し、米国はイランの港湾に対する封鎖を解除することになっている。ただ、最終的な合意文書はまだ公表されておらず、多くの詳細は不明なままだ。

両国は今後の展開について異なる説明を示している。トランプ米大統領はホルムズ海峡が再び通航料無料になると述べている。一方、イランの準政府系ファルス通信は、合意内容に詳しい関係者の話として、船舶が無料で通航できるのは60日間に限られると報じた。同通信によると、その後は安全対策、航行支援、環境保護、保険サービスなどを理由にイランが料金を徴収する計画で、海峡の通航は海峡に面するイランとオマーンが管理することになる。

ホルムズ海峡の航行は正常化するのか?

米国とイランの暫定合意が署名された後も、ホルムズ海峡の航行が直ちに正常化する可能性は低い。船主らは、ペルシャ湾に出入りさせる船舶が安全かつ長時間の遅延なく航行できるとの確信を必要としている。

ここ数カ月、合意成立と伝えられたものの、結局はイラン軍による船舶への発砲や拿捕(だほ)で終わった例もあり、慎重姿勢を崩さない船主もいるとみられる。米国とイランの相互不信は依然として強く、より包括的な和平協議が決裂すれば、ホルムズ海峡が再び交渉材料となる可能性もある。

安全上の懸念の一つは、イランが海峡内に敷設した可能性のある機雷だ。ルビオ米国務長官は6月、海峡の広範な区域に機雷が設置されていると述べた。こうした爆発物の探知と除去には数週間かかる可能性がある。事情に詳しい関係者によると、英国とフランスは必要に応じて多国籍の機雷除去作戦を主導する計画を策定している。

ホルムズ海峡の重要性とは?

ホルムズ海峡は北側のイランと南側のアラブ首長国連邦(UAE)、オマーンの間に位置し、ペルシャ湾とインド洋を結んでいる。全長は約100マイル(161キロメートル)、最も狭い部分の幅は24マイルで、各方向の航路幅はわずか2マイルしかない。

同海峡はエネルギー市場にとって不可欠な輸送路であり、世界の石油および液化天然ガス(LNG)供給量のおよそ5分の1が通過する。平時にはサウジアラビア、イラク、イラン、クウェート、バーレーン、カタール、UAEがホルムズ海峡経由で原油を輸出しており、その大半はアジア向けだ。

また、湾岸諸国には、ディーゼル、ジェット燃料、プラスチックやガソリンの原料となるナフサ、その他多くの石油製品を大量に生産する精製施設があり、これらもホルムズ海峡を経由して世界に輸出されている。

エネルギー以外にも、ホルムズ海峡はアルミニウム、肥料、さらには半導体製造に使用されるヘリウムなどの製品の輸送における要衝となっている。

イラン戦争がホルムズ海峡の航行にどう影響したのか?

イランは、自国領土への米国とイスラエルの攻撃への報復として、ペルシャ湾周辺で断続的に船舶を攻撃し、ホルムズ海峡の航行に厳しい制限を課した。その結果、多くの船主は人命や貨物、船舶そのものを失うリスクを避けるため、海峡通過に二の足を踏んでいる。

一部の船舶は、位置情報を発信するトランスポンダーを停止する「ダーク航行」と呼ばれる方法で航行を試みた。米軍も船舶の海峡通過を支援した。一方イランは、自国沿岸に近い航路を利用した通航を一部船舶に認めており、安全通航を巡る交渉や、場合によっては最大200万ドル(約3億2000万円)の支払いを求めた後に通航を許可していた。

それでも1日当たりの通航船舶数は平時を大きく下回っている。航行量の急減で湾岸地域の産油国は原油の貯蔵余地が不足し、生産の大部分を停止せざるを得なくなった。

イランは4月中旬以降続く米国の封鎖に対し、ホルムズ海峡再開を求める圧力を退けてきた。5月には自国の支配海域の主張範囲を拡大し、海峡通航を管理する新組織「ペルシャ湾海峡庁」も設立した。

産油国はホルムズ海峡を迂回できるのか?

クウェート、カタール、バーレーンには原油輸出の現実的な代替ルートがない。

ホルムズ海峡経由の輸出量が最も多いサウジは、西側の紅海沿岸都市ヤンブーへ通じるパイプラインに原油を振り向けている。このパイプラインの輸送能力は日量700万バレルと、戦争前の輸出量にほぼ匹敵するが、一部は国内需要向けであり、同ルート自体もイランの攻撃対象となった。サウジは5月にヤンブーから日量365万バレルの原油を輸出した。

UAEも油田とオマーン湾沿いのフジャイラ港を結ぶパイプラインを利用してホルムズ海峡を迂回(うかい)できる。ただ、この輸送路の能力は通常の輸出量の半分未満にとどまり、両端のインフラもイランの攻撃を受けている。国営アブダビ国営石油(ADNOC)は、2027年までにフジャイラ経由の輸出能力を倍増させるため、第2のパイプラインの建設を急いでいる。

イラクにも有力な代替ルートはほとんどない。トルコの地中海沿岸港へ向かうパイプラインは、現在イラク南部の主要油田と接続されていない。またヨルダンやシリア経由の輸送再開構想もあるが、検討されている輸送量はホルムズ海峡経由の通常輸出量のごく一部にすぎない。

イランにはホルムズ海峡を管理する権利があるのか?

国連海洋法条約では、沿岸国は海岸線から12カイリ(約22キロメートル)までの領海で主権を行使できる。ホルムズ海峡はイランとオマーンの領海内に位置するが、各国は外国船舶の「無害通航」を認める義務があり、国際航行に利用される海峡では無害通航および通過通航を妨げてはならない。また、単なる通過に対して外国船舶に課金することは認められていない。

イラン政府は1982年に同条約へ署名したものの、議会はこれを批准していない。

原題:What the US-Iran Deal Means for the Strait of Hormuz: Explainer(抜粋)

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