(ブルームバーグ):今年のサッカー・ワールドカップ(W杯)を巡っては、酷暑から交通機関の混乱、記録的なチケット価格に至るまで、さまざまな懸念があったが、開幕数日間の盛り上がりに水を差すまでではなかった。
メキシコと米国は快勝し、カナダが引き分けるといった開催3カ国の好調な戦いも、盛り上がりに一役買っている。
11日の開幕戦でメキシコが南アフリカに2-0で勝利した後、雨が激しく降っていたにもかかわらず、メキシコ市の通りはファンであふれかえった。ホスエ・オルテガ・ラミレスさん(44)は「国中が一つになって、この感動を分かち合っている。社会的地位や立場の違いなど関係なく、誰もが興奮に包まれている」と話した。

一方、歓喜の裏で課題も浮き彫りになった。カタールとスイスの引き分け試合では空席が目立ち、チケット価格の高騰が需要を冷え込ませたという懸念を裏付けた。韓国がチェコを破ったグアダラハラの会場は、ホスピタリティーエリアが閑散としていた。

米当局の強硬な移民取り締まりも、W杯に影を落としている。メキシコ出身で現在は米国市民権を持つマリア・プライスさんは11日、ロサンゼルス中心部での観戦パーティーで大きなメキシコ国旗を振っていた。プライスさんによると、地元のメキシコ系米国人は今もおびえながら生活しているため、客足はまばらだったという。同市では昨年、トランプ政権が州兵を後ろ盾にした連邦捜査官を投入し、移民の取り締まりを断行した。プライスさんは「例年なら、ここは超満員になる。みんな外に出るのを恐れている」と語った。
出場枠拡大でファンも増加
今年のW杯で、国際サッカー連盟(FIFA)は出場枠を32チームから48チームに拡大し、40試合を追加した。この拡充策について、出場チームの質の低下を招くだけでなく、なりふり構わず収益拡大を追い求めるFIFAの姿勢が改めて露呈した例だとの批判も上がった。ただ、この拡充策は、W杯出場を何度も逃してきた国々のファンにとっては、大きな意味がある。
ニューヨークで数少ないパラグアイ料理店「アイ・ラブ・パラグアイ(I Love Paraguay)」は、同国の出身者たちの集いの場だ。12日夜、16年ぶりのW杯出場となる同国の試合を観戦するため、ファンはテーブルを埋め尽くし、床に座り込む人さえいた。 同国の首都アスンシオンからニューヨークの親族を訪ね、3週間滞在しながら試合を観戦しているミリアン・カセレスさん(60)は「ここにいるだけで鳥肌が立つ」と話した。スタジアムで直接試合を観戦する予定はなく「近くで見るためにやってきた」と言う。

ハイチのW杯出場は1974年以来。国内の混乱により、2021年以降は自国での試合を開催できず、合同練習すら満足に行えない状態が続いていた。ブルックリンの「リトル・ハイチ」として知られる地区では、スコットランド対ハイチ戦を一目見ようと、ファンが飲食店やバーを埋め尽くした。試合は、1998年以来W杯から遠ざかっていたスコットランドが1-0でハイチを破った。
「ブンナン(BunNan)」では、店員が満席の店内に甘いプランテンやジャークチキンの皿を運んでいた。 同店のオーナーであるナデージュ・フルリモンドさんは、「私たちはレストランであると同時に、コミュニティーの拠点。文化や仲間のためにも、観戦パーティーを開催するのは当然のことだ」と話した。
移動に片道1万6000円も
試合会場への交通機関は関心を集めてきた。ブルームバーグの記者は、ブラジル対モロッコの試合を見るため、マンハッタンからニュージャージー州のメットライフ・スタジアムまで列車で移動。98ドル(約1万6000円)かかったがトラブルはなかった。試合は引き分けだった。

ウエスタン・コネチカット州立大学を卒業したばかりで、モロッコを応援するアイユーブ・ムサノヴィッチさんも、アムトラックの列車でマンハッタンに行って運賃20ドルのシャトル便を使い、問題なく試合会場に到着した。しかし、観戦チケットに1700ドルを支払ったことには不満を漏らした。「これが資本主義というもの。でもここまで来たからには、全力で応援する」と話した。
今大会のチケット代があまりにも高額なため、グループステージの観客動員を不安視する声は多かった。FIFAが設定した初期価格が高すぎたため、転売サイトでの価格高騰に拍車がかかったとの批判も上がっている。多くのファンも批判に加わったものの、大会の価値を踏まえて、高額なチケット代を払った。
韓国を応援するため、5000ドルをかけてメキシコへ来たチョ・ヒョンキさん(26)は、韓国代表の赤いユニホームに身を包み、国旗をはためかせながら、メキシコのサポーターたちと笑顔で記念撮影をしていた。両国には、2018年大会までさかのぼる絆がある。この大会で、韓国はドイツを破り、メキシコの決勝トーナメント進出を後押しした。
「そんなに高額ではないと思う。W杯の空気を肌で感じたかったので」とチョさんは話した。
一方、トロントでは12日、ジョシュア・マティアスさんとビノイ・ダルメイダさんが、職場から直接、BMOフィールドへと向かった。高額過ぎるため、チケットは買わなかった。インドで育った友人同士の2人は、開催国カナダの赤と白のユニホームを着込み、スタジアムの外の日陰で身を寄せ合ってスマートフォンでカナダ戦の配信を見た。ダルメイダさんは 「せめてスタジアムの外にだけでも来て、ワールドカップの熱気を味わいたかった」と話した。
原題:World Cup’s Smooth Start Eases Concerns for Host Nations, FIFA(抜粋)
--取材協力:Greg Ryan、Gonzalo Soto、Andrea Navarro、Joe Lovinger、Miles J. Herszenhorn、Lorelei Smillie、Jessica Kim、Thomas Seal、Julie Fine、Vanessa Perdomo、Victor Swezey.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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