(ブルームバーグ):米アンソロピックは人工知能(AI)モデル「ミュトス(MYTHOS)5」と「フェイブル(FABLE)5」について、両モデルへのアクセスを全ての利用者向けに停止したと明らかにした。外国人による両モデルへのアクセス制限を命じた米政府の異例の措置に従うためとしている。
同社は発表文で、「米政府は国家安全保障上の権限を根拠に、フェイブル5およびミュトス5へのアクセスを停止する輸出規制指令を発令した。対象は米国内外を問わず全ての外国人で、外国籍のアンソロピック従業員も含まれる」と説明した。
米企業が開発した最先端AIモデルへの外国人のアクセスを制限するために、米政府がこれほど広範な措置を講じたのは今回が初めて。トランプ、バイデン両政権はいずれも、半導体やスーパーコンピューターなど戦略的に重要な技術について外国からのアクセスを制限してきた経緯があり、AIモデルへのアクセス制限の是非を巡っては議論が続いている。ただ、AIモデルそのものを規制対象とすることには、憲法上および商業上の懸念がある。
アンソロピックは、米政府がフェイブル5について、非正規な方法で事前の安全制限を解除するジェイルブレークが可能なことを把握し、そのために今回の指示を出したと思われると説明。そうした限定的な可能性が見つかったことを理由に、「何億人もが利用する商用モデルを回収すべきだという考えには同意できない」とコメントした。
アマゾンが懸念伝達か
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、アマゾン・ドット・コムの研究者らはアンソロピックのモデルに対するジェイルブレークの研究を実施し、一部の脆弱(ぜいじゃく)性を発見した。
事情に詳しい関係者によると、アマゾンと米政府は、今回の規制措置が導入される前から、この脆弱性について協議していた。機密性の高い情報だとして、関係者は匿名を条件に取材に応じた。関係者の1人によると、アマゾンのアンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は、政府との協議に関与していた。
テクノロジーニュースサイトのジ・インフォメーションはこれに先立ち、ジャシー氏が米政府高官に対し、安全保障上のリスクを巡る懸念を伝えたと報じていた。
アマゾンの広報担当者は、政府が安全保障上のリスクについて同社に相談することは珍しくないと述べたが、協議の詳細についてはコメントを控えた。
またニュースサイトのセマフォーは、トランプ政権がミュトスへのアクセスを制限したことについて、中国と関係のある組織が同モデルにアクセスしていた疑いがあることが背景にあると報じた。
日本にも影響か
今回の動きは日本政府や企業にも影響が及ぶ可能性がある。
片山さつき金融相は、日本の金融機関に対してミュトスのアクセス権が付与されたと2日に明らかにしていた。
また日立製作所も、ミュトスの能力を検証する「プロジェクト・グラスウィング」に参画しており、同モデルのアクセス権を得ていた。
一方で片山氏は13日、現時点で日米財務省間で了解している状況に変化はないとX(旧ツイッター)に投稿した。
NHKは政府関係者の話として、これまでもアンソロピックや米政府側とは緊密に意思疎通を図ってきており、日本への影響について情報収集を進めていると報じた。
米政府の圧力強まる
アンソロピックによると、同社は米東部時間12日午後5時21分(日本時間13日午前6時21分)にこの指令を受け取った。トランプ政権が最先端AIモデルに制限を課す措置として、これまでで最も重大なものとなる。なお「アンソロピックのその他全てのモデルへのアクセスには影響しない」と強調している。
政権はこれまで、大統領令を含む複数の声明で、モデル審査に関するライセンス制度は導入しないとしていた。米政府当局者は、商務省がこの書簡を送付したことを認めた。
今回の指令は、アンソロピックに対する米政府の圧力をさらに強めるものでもある。アンソロピックが求めた安全対策に関する条件を巡る契約交渉の対立を受け、国防総省は先に同社をサプライチェーン上のリスクと指定した。
今回の制限措置は、米国で最も企業価値の高いスタートアップ企業の1社で、今後数カ月以内の新規株式公開(IPO)が見込まれているアンソロピックの成長を阻害する可能性もある。
同社によると、今回の指令では政府が懸念する国家安全保障上の問題について具体的な説明は示されなかった。
非上場企業のアンソロピックは、責任あるAI開発企業としての立場を長年強調してきた。同社は4月、サイバーセキュリティー上の脆弱(ぜいじゃく)性を発見できる能力について警告した上で、ミュトスを限定された企業や政府機関向けパートナーに初めて提供した。今週には、危険なサイバー用途や生物学関連用途への利用を防ぐための厳格な安全対策を組み込んだ一般向けバージョンとしてフェイブル5を公開した。
ミュトスの公開は、AI政策を巡るトランプ政権の取り組みを加速させた。これには、モデル審査を自主的に実施するよう求めた最近の大統領令も含まれる。この大統領令では、その内容が義務的なライセンス制度の創設と解釈されるべきではないと明記していた。
原題:Anthropic Shuts Down Mythos Access After Sweeping US Order (3)(抜粋)
(第1および6―9段落を追加して更新します。)
--取材協力:香月夏子、Yi Wei Wong、Shirin Ghaffary.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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