日本市場が物価高や企業再編で大きな転換を迎える中、ゴールドマン・サックス・グループは日本事業の体制を再構築している。

バブル崩壊後の日本の金融業界を特徴付けてきたのは、デフレや経済の停滞、そして人材の流動性の低さだ。足元ではインフレや合併・買収(M&A)の増加、株価と金利の上昇が相まって、人材の激しい争奪戦が繰り広げられている。この状況下でゴールドマン・サックス証券の居松秀浩社長(55)は変革を推進している。

居松氏は2024年に社長に就いて以降、相応の経験を積み、実績を上げてきた若手を要職に登用してきた。M&A助言業務や円金利商品の営業、株の引き受けを含む資本市場業務で新たな共同責任者を任命し、若手に次々と権限を委譲している。

「若くして成功できる会社であることは、会社の成長にとってすごく大事なことだ」と居松氏はインタビューで語った。「一番輝いている若者にとって一番輝ける場を作りたい」

有能な人材の獲得と定着をめぐる争いが、東京の金融業界で顕著になっている。デフレ下での金融活動の低迷により昇進の機会が制限され、組織階層が固定化した長期停滞期とは対照的だ。

競合の金融機関に加え、プライベートエクイティー(未公開株、PE)ファンドなどの資産運用会社も人材獲得を競っている。少子高齢化や銀行業界への関心の低下も、若手の獲得をさらに困難にしている。

争奪戦激しく

事情に詳しい関係者によると、今年初めに投資銀行業務に関わる若手2人がゴールドマンを離れ、PEファンドへ移籍した。また、若手からベテランまで数人の機関投資家向け営業担当者も、競合する大手外資系金融機関へ転職した。

オートノーマス・リサーチの伴英康シニアリサーチアナリストは、優秀な若手を採用するには「頑張ればさらに上にいける機会が提供されると内外にアピールしていく必要がある」と指摘する。

居松氏は、日本におけるM&A助言業務の先駆者である持田昌典氏から社長の職を引き継いだ。同氏は01年から23年までゴールドマンの日本事業を率い、ウォール街の同社が日本の基盤を築き上げるのに貢献した。ブルームバーグのデータによれば同氏が社長を務めた期間中、ゴールドマンは日本関連のM&A助言業務で少なくとも5回首位の座に立った。

25年12月期の純営業収益は15年ぶりの高水準を記録した。居松氏は、投資銀行業務と資産運用に重点を置いて事業を拡大する方針だとし、収益の拡大に強い意欲を示した。「守りではなく攻めの姿勢で売上高の拡大を目指す。トップラインを上げていきたい」と語った。

M&A助言業務、今年は順位後退

今後採用したいのは、好奇心によって突き動かされ、何かに夢中になり、「気付いたらこんなところまで来てしまった」というような人材だという。短期的な目標を設定し、「そこまでいかに簡単にいくかを勝負してきた人」ではないと強調した。

ブルームバーグのデータによると、ゴールドマンは25年、日本関連株式引受業務で8年ぶりに業界2位にまで返り咲き、今年に入ってからも野村ホールディングスに次ぐ2位を維持している。日本関連のM&A助言業務では25年に2位となり4年ぶりの好成績を収めたが、今年は14位に後退している。

居松氏は、顧客基盤の拡大を図るため、東京の投資銀行部門の人員を増やしていると述べたが、具体的な数字は明らかにしなかった。投資銀行業務に携わる人材の採用競争は激化しており、業界内で報酬は上がってきているとも語った。

株式・債券のセールス・トレーディング部門では、仕事は能力の高い人に集中させた方がよいという考えのもと、限られた人員で高い成果を追求する方針をとっている。

社長も現場の先頭に

居松氏は1996年にゴールドマン・サックスに入社した。債券などの取引業務で頭角を現し、2017年に同社のグローバル金利トレーディング業務の共同統括に就いた。日本人では初めてだ。

現在もアジア太平洋地域全体の債券・為替・商品のトレーディングを統括し続けている。「自分の仕事を背中で見せることのインパクトはあると思う。持田さんからも学んだことだが、社長であっても現場の先頭に立つのがゴールドマン・サックスの文化だ」

居松氏が主導する改革は、20年ごとに社殿を造り替える伊勢神宮の伝統「式年遷宮」から一部着想を得ている。1300年にわたり職人技と知識を後世へと受け継ぐ儀式を、変わることを通じて組織の持続性を高める象徴だと捉える。

この慣習を知ってから約10年が経った。「何かに挑戦して変わっていける人たちの集団でいたい」。居松氏は、日本企業が過去の保守主義から脱却し、新たな戦略に邁進している様子を目の当たりにしている。

「変われないということは弱さだ」。ゴールドマン自身が変化のペースに後れをとらないほど迅速に適応できているのか、問い続けている。

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