都区部CPIの下振れは水道料金の特殊要因だとしても、家賃の弱さは重要

総務省が5月29日に発表した5月の東京都区部CPIは、コアが前年同月比+1.3%となり、市場予想の同+1.5%を下回った(Bloomberg調べ)。市場予想を下回った背景は、東京都が水道基本料金無償化を実施したことの影響とみられる。この補助策は、昨年は6~9月に実施されていたが、今年は5~8月に実施された。その結果、水道料の前年同月比が大幅なマイナス(▲34.6%)となり、CPI全体への寄与度が前月と比べて▲0.23%ptとなった。この影響を除けば、市場予想と概ね一致した結果だった公算である。

もっとも、このような特殊要因は事前に把握することは可能だったと言え、市場予想に織り込まれていたのではないか?という疑問が生じる。そこで、QUICKや時事通信が集計している予測者(エコノミスト)の事前コメントをチェックすると、事前に水道料金の押し下げ要因に言及したものはなかった。事前に予測できていなかった可能性は高いだろう。なお、筆者は今年度から経済指標の短期予測を行っていないことから、個人的な見解を述べることはできないが、多くの予測者が後悔し、反省している可能性が高い。こういった事態(分かっていた政策効果を予測できなかった)になったのは、政府によるガソリン代や電気代の補助金、東京都による保育の無償化といった政策が乱立していることが、分析(予測)を複雑化させていることが理由の一つだろう。エコノミストの間でも、インフレとはいったい何なのか?必ずしも明確でなくなっていると言えるだろう。

こういった問題もあるものの、市場参加者は経済の体温計であるインフレを分析せざるを得ない。この点について、筆者は家賃のインフレ率に注目している。短期的な変動が少なく(粘着性が高く)、賃金の影響を大きく受けると考えられるからである。5月の東京都CPIの結果によると、「民営家賃」の前年同月比は+1.5%だった。26年1月以降は、+2.1%、+2.2%、+2.0%、+1.4%、+1.5%という数字の並びである。なお、ウエイトの高い「持家の帰属家賃」は、+1.3%、+1.4%、+1.3%、+0.9%、+1.1%である。25年は、おそらく転居が増える4月のタイミングで上昇率が大きく変化(民営家賃について、25年3月が前年同月比+1.1%で、25年4月が同+1.8%)していたことから、26年も注目されていたが、大きな変化はなかった。

また、26年4月の全国CPIでは「民営家賃」が前年同月比+0.6%で、「持家の帰属家賃」が同+0.4%だった。東京都の押し上げ効果を考慮すると、東京都以外ではほとんど家賃は上昇していないと言える。むろん、日本のCPI統計では家賃の算出に際して品質調整(築年数増による経年劣化の考慮)をしないという下方バイアスが指摘されている。しかし、そのことを考慮しても、賃金と物価の好循環によって基調的なインフレ率が強くなっているとは言えない。過去数年の企業の賃上げにもかかわらず、人口が増加している東京都など一部の地域以外では、人口減少による需要減の影響の方が大きいのだろう。

通貨の安定と中央銀行の信認の観点から、コストプッシュによるインフレにも対応して機動的に利上げ・利下げを実施した方が国内経済の安定性が維持されるという主張があることは事実である(筆者はこの考えである)。しかし、現在の日銀が「基調的なインフレ率」に連動した政策判断を重視していることを考慮すると、利上げのハードルは高いと予想せざるを得ない。

(※情報提供、記事執筆:大和証券 チーフエコノミスト 末廣徹)