中長期的にも成長力の弱さを反映した「弱い円」が続きやすい

今後、中東危機が収束に向かい、資源価格が落ち着きを取り戻せば、一時的に円の買い戻しが進む局面も見込まれる。しかし、中長期的にみれば、大幅かつ持続的な円高局面への回帰は見込みにくい。上述の日米金利差の縮小余地の乏しさ、実需面からの円売り圧力、財政運営への不安は、一見すると個別の要因であるが、その底流には日本経済の成長力の弱さがある。

中長期的な日本経済の成長力を示す潜在成長率は、足元でゼロ%台半ばにとどまっており、2%程度とみられる米国を大きく下回っている。人口減少による労働供給制約に加え、デジタル化・省力化投資の遅れや高付加価値分野での競争力不足などから生産性も伸び悩んでいる。こうした成長力の弱さが、日銀の利上げ余地を狭めるとともに、円安でも貿易収支を改善しにくくし、さらに財政不安を通じて金融政策の自由度を制約するとの見方を強めている。

金融政策面では、成長力の弱さが日米金利差の縮小を妨げる要因となる。潜在成長率が低い経済では、中立金利も低位にとどまりやすく、急速な利上げは景気を大きく下押しする恐れがある。このため、日米金利差の縮小余地は中長期的にも乏しいとみられやすい。

実需面では、成長力や競争力の弱さが、円安の自律的な修正力を弱めている。日本企業の海外生産シフトが定着したことで、円安が進行しても輸出数量はかつてほど伸びにくくなっている。これに加え、資源高の影響を受けやすい化石燃料主体のエネルギー輸入構造や、クラウドサービスなどデジタル分野での海外依存も、財・サービス収支の改善を妨げる要因になっている。このため、円安が収支の改善を通じて自然に修正されるメカニズムは働きにくく、実需面からの円売り圧力が残りやすい。

財政面の懸念は、円の信認だけでなく、日銀の利上げ余地への疑念を通じて円安圧力を根強くする要因となる。成長力が高まらなければ、税収の伸びは限られ、財政の健全化は進みにくい。こうしたなかで日銀が利上げを進めれば、国債の利払い費の増加を通じて財政悪化への懸念が一段と高まる。市場で、日銀が政府債務コストを意識して利上げに慎重にならざるを得ないとの見方が強まれば、これも円の信認低下につながる。

このように、足元の円安要因は、日本経済の弱さを起点として相互に結び付いている。「弱い円」から脱却するには、為替介入などの対症療法ではなく、省力化・デジタル化投資や人的資本投資を通じて高付加価値分野の競争力を高め、日本経済の成長力を高めることが不可欠である。

(※情報提供、記事執筆:日本総合研究所 調査部 副主任研究員 立石 宗一郎)