英国のロンドンでは、週に1日か2日を在宅で働こうとする人が多い。ところが、在宅勤務者に新たな悩みが最近持ち上がった。熱波だ。

夜間の最低気温が25度以上で「熱帯夜」と定義される日本とは異なり、英国では20度以上で熱帯夜と見なされる。それがロンドンでは、25日に今年初めて観測。これは史上最速の熱帯夜到来だった。この日はロンドンの日中最高気温が35度を超え、5月の史上最高を更新した。

ロンドン北部に拠点を置くエアコン設置業者エアコンコのマネジングディレクター、ゲーリー・ウッドワード氏は、同社の設置サービスは夏の終わりまで予約で埋まっていると明かした。

「極端に暑い日が2-3日続くだけで、人々は不快感を感じて仕事も睡眠もままならなくなり」、需要が急増するとウッドワード氏は語った。

英国の気温上昇は地球の平均を上回るペースで進んでおり、効果的な冷房設備へのアクセスはますます欠かせないものとなりつつある。ただ、現時点で、エアコンは依然として一部の英国人だけが持てるぜいたく品だ。エアコン導入数は過去3年間で2倍に増えたものの、設置されているのは英国のわずか7%の住宅に過ぎない。さらに8%の家庭は移動式のエアコンを保有しているが、購入費用は安くて済むものの効率は劣り、使用に際してかかる費用も高い。

Photographer:Jose Sarmento Matos/Bloomberg

建物内のオーバーヒート対策で政府や自治体と協力している地域社会貢献企業シェードUKの創業者兼マネジングディレクター、アンディー・ラブ氏は「英国の建物の大多数は、もはや存在しない気候を前提に設計されている」と指摘。「英国は何十年もの間、暖かさや気密性、冬場の快適さを優先し、猛暑が続く場合に建物がどうなるか十分考慮されてこなかった」と語った。

英国の建物が人々を猛暑から守れていない現状は、「建築上の危機」だと、同氏は警鐘を鳴らした。

3年前に香港からロンドンへ移住したヴァネッサ・チャン氏(34)は、ロンドンで経験する酷暑に衝撃を受けている。

自宅アパートが暑くなり過ぎると、チャン氏は「在宅勤務ではなくオフィスに行くようにしている。会社の方針では週2日程度の在宅勤務が可能だが、オフィスのエアコンで涼みたい」と語った。

チャン氏のアパートはロンドン南東部の近代的な建物だが、賃貸のため適切なエアコンが設置できないという。設置が許可されるとしても、その費用を賄うのは難しいと同氏は語った。

ロンドンから南、海岸沿いのブライトンに住む作家のエープリル・リチャードソン氏(47)が頼るのは扇風機で、夜はリビングの床に寝ている。リビングは下の階にあり、寝室よりも涼しいからだ。

「ピザ窯の中で」暮らしているようだと話すリチャードソン氏は、熱を帯びるラップトップパソコンのバッテリーの近くにいるだけで耐え難く、「誰だって嫌だろう。不快で、集中するのも難しい」と続けた。

大半のオフィスにはエアコンがあるが、通勤も過酷だ。良くも悪くも有名なロンドンの地下鉄は、半分以上の車両に冷房がない。

ロンドンの地下鉄網を走る半分以上の車両にはエアコンがない

ロンドン市当局は長らく、エアコン導入に反対の姿勢を続けてきた。エアコンが増えればエネルギー消費も増え、環境への負荷が増大することや、都市のヒートアイランド現象が悪化するとの理由からだ。

市内で最も高価な住宅が並ぶ地区の一部ですら、エアコン設置には障害がある。平均住宅価格が約130万ポンド(約2億7800万円)に上るケンジントン&チェルシー区では通常、エアコン設置に特別な許可が必要だ。地域に多い歴史的建築物の外観と調和しないとして、事実上禁止されることも少なくない。

しかし、チャン氏のようなロンドン市民が気温上昇への対応に苦しむ中、当局には方針の見直しを求める圧力が高まっている。英政府に助言を行う気候変動委員会(CCC)は今月、エアコンを拒否し続けることはもはや許されず、危険性を増す暑さに市民が対応する助けとしてエアコンを位置づけるべきだと呼び掛けた。

CCCの気候変動適応責任者ジュリア・キング氏は、「エアコンは不可欠になる。病院や介護施設のように、暑さの影響を受けやすい人々がいる場所では特にそうだ」と述べた。

英国や欧州各地を現在襲っているようなシーズン初期の熱波は、人々がまだ暑さに慣れていないため特に危険だと、インペリアル・カレッジ・ロンドンのグランサム気候変動環境研究所で講師を務めるガリファロス・コンスタンティヌディス氏は指摘した。同研究所は、今回の熱波によってイングランドとウェールズでは死亡者が250人増える可能性があると推計している。

原題:London’s Expats Shocked by Heat as AC Remains a Dream for Most(抜粋)

--取材協力:Eamon Farhat、Joe Wertz.

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