繰り返される懸念…下流諸国の不安とメコン川の教訓
一方で、この計画は下流に暮らす数億人の運命を左右しかねないリスクを孕んでいます。同様の事態は、すでに別の川で現実となっています。
チベット高原から東南アジア諸国へと流れる全長4500キロの「メコン川」では、中国が上流にダムを建設した際、下流国に設計や貯水時期、リアルタイムの運用状況などの情報を一切開示しませんでした。
メコン川の豊かさは季節的な増水が生態系や漁業・農業を育む点にありますが、ダムによって水量をコントロールされた結果、タイ北部などの地域では突発的な水位変動に襲われ、漁村は衰退し、農地や家畜が流される被害に何年も苦しんでいます。

これと同じ懸念が、今度はインドやバングラデシュに広がっています。ブラマプトラ川の農業を支える豊かな土壌の約40%はヤルンツァンポ川の峡谷から流れてきており、数百万人の生計に直結しています。
国境紛争を抱えるインド(ニューデリー当局)は、中国が「水」を戦略的な道具や政治的武器として利用することを激しく恐れています。
中国政府はこれに対し、「厳格な科学的検証を経ており、悪影響は及ぼさない」「大量の水をせき止める巨大な貯水ダムは作らないため、将来紛争があっても水が武器にされることはない」と反論しています。
しかし、具体的なデータが開示されないため緊張は続いており、インド側も対抗策として、国境近くのシアン川上流に独自の巨大ダム建設を進めるという泥沼の様相を呈しています。
未来への宣言か、それとも

「重要なのは、数値化された客観的なデータを開示し、流域の住民や国際的な科学者も交えて議論することです」
専門家は、議論の目的は中国を悪者扱いすることではないと言います。
この巨大ダムが完成すれば、中国の脱炭素化だけでなく、地球全体の気候にとっても大きな利益をもたらすことは事実だからです。
もし中国がこの前例のない難事業を成し遂げれば、それは世界に向けた高らかな宣言となるでしょう。
「我々は川を作り変え、クリーンなエネルギーを生み出した。未来を築くため、無限の電力を提供できるのだ」と。
しかしその光の裏には、自然環境への見えない負荷や、立ち退きを迫られる地元住民の犠牲、そして隣国との水をめぐる緊迫したリスクが重く横たわっています。