(ブルームバーグ):米国で働くほとんどの人の直感に反する統計を目にした。米国人の労働時間は1950年代や60年代よりも短くなっているという。デスクやスマートフォンに縛られている感覚がある中で、なぜこうしたことが起きているのか。
確かに、米国人は依然として他の多くの国より長く働いている。特に長期休暇や週35時間労働で知られる欧州と比べればなおさらだ。ただ、その差は縮小している。
米国人の週当たり労働時間が減少している一方で、他の富裕国では労働時間が増えている。このペースが続けば、いずれフランスに近づく可能性もある。
もっとも、この現象は米国人全体が怠惰になったというよりも、労働市場における男性の減少によって説明できる公算が大きい。それでも米経済全体や連邦予算への影響は深刻だ。
第2次世界大戦直後は、欧州人が世界のどこよりも長く働いていた。しかし、経済再建と大規模な福祉制度の構築が進むにつれ、労働時間は減少し、現在では世界の他地域よりも大幅に短くなっている。
米国でも1950年代に労働時間は減少したが、60年代に増加に転じ、80-90年代にかけて加速。その後は横ばいとなり、2010年代に入って再び減少した。一方、欧州では2010年代に労働時間が増加し始めた。米国と他の富裕国との格差は半減している。

この背景を探った新たな論文では、米国における低所得者向け公的医療保険「メディケイド」の拡大が一因である可能性が示されている。1970年には約2000万人、人口の約1割が対象だったが、2020年には1億人と、3割に拡大した。メディケイドは就労の抑制要因となり得る。
受給者が就職したり労働時間を増やしたりすると、医療給付を失う、あるいは負担が増える可能性があるためだ。所得制限が実質的に労働に対する100%の課税として機能し得ると推計する研究もある。
いずれにせよ、労働時間の減少は問題になりつつある。高齢の米国人の中には年齢差別や適切な仕事の不足によって労働市場から排除されている人もいる。
一方で、フルタイムで安定した仕事を見つけられないパートタイムの働き手もいる。こうした傾向が悪化しているのか、それともテクノロジーの進展によって人々が働く手段を増やすことで、今後改善されるのかは不透明だ。
労働市場退出
より明確な懸念は、労働時間の減少が男性や低所得者層に集中していることだ。かつては高所得者層ほど労働時間が短かったが、20世紀にこの傾向は逆転し、現在では高所得を得ている人の方が低所得者より長時間働いている。
男女差については、米国の時間使用調査によると、就業者の労働時間は2003年以降、男女ともおおむね安定している。全体の労働時間減少は主に非就業者の増加、特に男性によるものだ。男性の労働市場からの退出が、この傾向を大きく左右していることは明らかだ。
欧州でも労働力人口に占める男性の割合は減少しているが、これは主に早期退職や平均寿命の延伸によるものだ。20年時点で、25-54歳の男性のうち労働力人口に属さない割合は欧州で8%、米国で11%だった。欧州では若年失業率が高い傾向にあるが、それでも労働時間は増加方向にあり、米国とは対照的だ。
もっとも、米国人が依然として欧州より長く働いている点は重要だ。平均すると、米国人が100時間働く間に他の富裕国では92時間働いている。
また、米国の福祉制度が拡充されつつあるとしても、欧州の方がさらに手厚いのが一般的だ。もちろん、就労を促す形で給付制度を設計することは可能だが、より大きな問題は、このままでは持続不可能だということだ。
米国と欧州ではいずれも高齢化が進んでおり、今後は社会保障コストが一段と増大する。労働時間が減れば税収も減少し、こうした給付を賄うのが難しくなる。
欧州は正しい方向に一歩踏み出しているが、依然として課題は大きい。一方、福祉の強化と労働時間の縮小が同時に進む米国では、問題の顕在化がむしろ加速する可能性がある。
(アリソン・シュレーガー氏は、ブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。経済を担当し、マンハッタン研究所のシニアフェローも務めています。著書には「リスクテイクの経済学-気鋭の学者と現場で探る、賢いリスクの選び方」があります。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:Americans Aren’t Working as Much as They Did: Allison Schrager(抜粋)
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