(ブルームバーグ):人工知能(AI)を巡る投資ブームの中で、インド市場は最大級の敗者となっている。
インド株式市場は、時価総額で世界トップ5から、3年ぶりに陥落する瀬戸際にある。台湾や韓国ではAI関連株が相場を押し上げているのに対し、インドではそれに追いつくどころか、差を広げられる恐れが強まっている。
背景にあるのは、インド株の割高感や企業利益の減速だけではない。かつては新興国ポートフォリオでインドを中国に迫る存在へ押し上げた世界の投資家も、今ではインド市場に欠けているテーマに資金を振り向けている。それが、半導体製造、計算インフラ、そしてAIモデルだ。
インドには人材や需要、デジタル分野の規模はあるものの、その構築に直接関与する企業は少ない。その結果、インド市場は国内消費を軸とした成長期待にますます依存する構図となっている。
「現在の下落は、押し目買いをする局面ではない」と、グローバルCIOオフィスのゲーリー・ドゥーガン最高経営責任者(CEO)は言う。「市場がまだ十分に織り込めていないのは、これはインド企業の一時的な業績悪化ではないということだ。いまは、企業の長期的な価値そのものが問われている。これら企業が10年後にどこにいるのかという前提を変えなければならない」と指摘した。
評価見直しの規模を示すように、MSCI新興市場指数におけるインドの比率は昨年の約19%から12%へ低下した。M&Gインベストメンツによると、過去12-18カ月にインドから流出した資金再配分の約3分の2は、AI関連投資へのシフトを反映している。

ファンドマネジャーがインドへの配分を減らす中、海外投資家の資金流出は加速している。ゴールドマン・サックス・グループの試算によると、海外投資家のインド株の保有比率は14年ぶりの低水準に下落し、20年以上ぶりに国内機関投資家を下回った。
インドの立場の変化は鮮明だ。インド市場の時価総額はコロナ禍での低水準から急回復し、2024年9月には過去最高の5兆7300億ドル(約910兆円)に達した。当時、NSEニフティ50指数は世界主要市場で最高のパフォーマンスを記録していた。
しかし、株価の割高感への懸念から海外マネーの流れが不安定化すると、流れが変わり始めた。さらにAIブームが到来し、投資資金は他国へと流出。ピーク以降、インド市場の時価総額は9240億ドル減少した。
今年に入り、原油価格上昇がインフレリスクを悪化させ、ルピー相場にも圧力をかける中で、逆風は一段と強まった。海外投資家は一斉に資金を引き揚げており、2024年末以降の流出額は420億ドルに達している。
資金シフトの主な受け皿は、韓国と台湾だ。AI関連株に支えられた両市場の株価指数は今年、それぞれ78%、42%上昇しており、対照的な動きを示している。一方、インド株指数は9%超下落し、10年続いた年間上昇が途切れる見通しとなっている。韓国と台湾の市場は、株式時価総額でインドを逆転するまで5000億ドル未満の差に迫っている。
崩れつつある「成長」の前提
「世界がAIを軸に再評価される中、インドの主要株価指数は過去に縛られたままであり、世界の資本市場はその点を見逃していない」とクレイ・グループの株式部門責任者、アーディル・イブラヒム氏は指摘した。その上で、「新世代のイノベーターを反映する形に市場が進化しない限り、インドはAI投資において構造的なアンダーウエートのままだろう」と述べた。
この乖離(かいり)の根底では、インドへの投資を支えてきた前提そのものが崩れ始めている。長年にわたり、インドは東アジア型モデルに沿って、製造業からサービス業、さらに革新的技術へとバリューチェーンを高度化していくと考えられてきた。しかし、その最後の飛躍こそが常に最も難しい段階だった。
投資家のインド離れを最も象徴する指標の一つがルピーだ。ルピーは対ドルで過去最安値まで下落した。このため、モディ首相は為替相場を下支えする目的で、国民に燃料使用の削減や不要不急の旅行自粛を呼びかける事態に追い込まれた。
「インドは真の戦略的転換点に近づいている」とバンテージ・グローバル・プライムのアナリスト、ヘベ・チェン氏は述べた。「世界経済の次の成長局面は、AIインフラ、計算能力、技術所有権によって形成されつつあるが、インドはまだそれを確保できていない」と指摘した。
これまでインド成長の原動力だった企業は、むしろ弱点として映り始めている。インド株式市場はITサービス企業への依存度が高く、業界規模は3150億ドルに達する。インフォシスやタタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)がその中心だ。両社のビジネスモデルは、世界の顧客向けにシステムを構築・保守する構造に依存している。しかしこのモデルは、生成AIツールによってコーディングやテスト、バックオフィス業務が自動化されることで、一段と打撃を受けやすくなっている。
NSEニフティIT指数は今年26%以上下落し、2023年以来の低水準近辺に沈んでいる。AIによる破壊的な変化の影響を受けやすいサービス業や旧来型産業の株を巡る世界的な売りに巻き込まれている。

もっとも、一部投資家は最悪期は過ぎたとみている。IT業界のニフティ指数に占める比率は、2022年初めの17%超から約8%へ低下した。また、アダニ・グループは潤沢な資金力を背景にデータセンター事業を拡大している。
「市場での株価調整はもうほとんど終わっている」とM&Gのポートフォリオマネジャー、ビカス・パーシャド氏は述べた。一方で、「依然として十分に見直されていないのは、インドは成長率が高いという理由だけで、新興国市場に対して大幅なプレミアム評価を受けるべきだという前提だ」と語った。
もっとも、その成長の持続性には疑問も出ている。ITサービスや海外企業の業務拠点では最大1500万人のインド人が働いており、その多くは国内でも高所得の職業にあたる。採用の構造的減速や、サービス需要の世界的な変化が進めば、不動産や消費、融資、さらには金融セクター全体に波及する可能性がある。
経済全体への影響はまだ顕在化していないものの、成長率見通しはすでに鈍化し、高成長国としてのインド像に疑問符を突き付けている。国際通貨基金(IMF)は、国内総生産(GDP)成長率について、過去4年間平均の年率8.3%から鈍化し、2027年と28年はいずれも6.5%になると予測している。
フォントベルのクオリティー・グロース部門ポートフォリオマネジャー、キアラ・サルギーニ氏によると、ニフティ50指数採用企業の2027年利益成長予想は、年初からおおむね半減している。
「インドの現在の状況で最も危険なのは、依然として楽観的な成長シナリオが残っているため、前提を見直す必要性がまだ十分に認識されていないことだ」とグローバルCIOオフィスのドゥーガン氏は述べた。
原題:India’s $924 Billion Market Rout Shows Cost of Missing AI Wave(抜粋)
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