人的資本と金融資本を組み合わせる

前章のデータが示す通り、AIスキルの有無による賃金格差の拡大、インフレによる実質賃金の停滞、そして資本市場の持続的な成長という3つの潮流は、会社員に対して明確なメッセージを突きつけている。

それは、「給与収入のみに依存するリスク」と「資本市場に参加しないことの機会損失」である。これらを踏まえ、AI時代を生き抜くために以下2点を提言したい。

第一に、人的資本の継続的アップデート(リスキリング)の前提化である。AIによる業務代替リスクを回避し、高い賃金プレミアムを享受するためには、AIを「使いこなす側」に回ることが不可欠である。

IMFのデータが示すように、AIユーザースキルの獲得は、給与の維持・向上に寄与しうる。会社員は、自律的に最新テクノロジーを学び、自身の人的資本を継続的にアップデートし続けなければならない。

第二に、「第二の収入源」としての金融資本(資産運用)の導入である。

人的資本の不確実性を補完し、インフレによる購買力の低下に備えるうえで、有力な手段となるのが「金融資本」の活用である。

OECDのデータが示す退職用資産の記録的な拡大は、資本市場の成長の恩恵を受けた結果である。

とはいえ、投資経験のない初心者がいきなりリスクの高い投資を行う必要はない。まずはNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)といった身近な非課税制度を活用し、無理のない範囲で毎月の給与の一部を積立投資に回すことから始めるべきである。

こうした少額からの着実な資産形成が、運用益という「第二の収入源(ストック収入)」を長期的に育てることにつながる。

AI時代において、会社員が給与だけで生き残ることは極めて困難な道のりとなる。

人的資本の価値が激しく変動し、インフレが実質賃金を蝕む中では、給与という「フロー収入」と、運用益という「ストック収入」の2つのエンジンを持つことが、経済的な豊かさを維持するうえで一段と重要になる。

不確実な時代を生き抜くための最大の防御は、自らのスキルを磨き続けると同時に、身近な制度を活用して資本市場の成長を自らの資産に取り込むことである。

(※情報提供、記事執筆:第一ライフ資産運用経済研究所 政策調査部 主席研究員 柏村 祐)