ホルムズ海峡の封鎖が世界経済に打撃を与えると考えるなら、台湾海峡で同じような危機が起きた場合を想像してみてほしい。人工知能(AI)からスマートフォン、自動車、軍事システムに至るまで不可欠な先端半導体の約9割の供給が滞りかねないシナリオに備え、各国政府や企業は準備を進める必要がある。

イランと米国がホルムズ海峡をいかに戦略的に利用してきたかを踏まえ、中国共産党は台湾を巡る選択肢を検討しているとみられる。習近平総書記(国家主席)は14日、この紛争について初めて公に発言し、国際秩序が「崩れ、混乱に陥っている」との認識を示した。

台湾海峡はホルムズ海峡と完全に同列ではない。地理的制約はより小さく、船舶は迂回(うかい)も可能だ。しかし、海上貿易や半導体供給における役割は極めて大きく、たとえ限定的な混乱であっても世界経済に波及する。

中国が台湾海峡を封鎖すれば、世界経済に2兆ドル以上の損失をもたらす。世界の先端半導体の9割が通過する要衝だからだ。世界で最も重要な貿易回廊が今、中東の紛争の裏側で抱えているリスクをブルームバーグ・オピニオンのコラムニスト、カリシュマ・ヴァスワニ氏が解説する。

台湾はこの脅威と日々向き合っている。中国は人口2300万人の台湾を自国の一部だと主張。習氏は台湾との「祖国統一」を平和的手段であれ武力であれ、自身の功績として歴史に刻みたいと考えている。

全面侵攻の可能性は排除されていないが、多くの戦略専門家は、多大なコストを伴う全面戦争よりも、封鎖や隔離といった形で圧力をかける公算がはるかに大きいとみている。つまり、中国が台湾周辺の航行条件を決めるということだ。

台湾の頼清徳政権は最近、重要な供給物資へのアクセスを維持できるよう新たな演習計画を発表した。内政部(内務省)の馬士元政務次長はブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、「これは台湾だけの問題ではなく、地域全体の問題だ」と指摘した。

全くその通りだ。台湾海峡は北東アジアやインド太平洋地域と世界市場を結ぶ世界でも最も重要な貿易ルートの一つに位置する。

世界のコンテナ輸送やエネルギーの流れ、工業製品の相当部分が日々ここを通過している。中国はすでに、全面侵攻に踏み切らずとも圧力をかけ得ることを示している。

中国人民解放軍は台湾包囲を想定した軍事演習を定期的に実施し、台湾へのアクセスを制限する状況を試している。

仮に中国が封鎖や隔離を実施した場合、その影響は計り知れない。国際的な対応を考慮しなくても、封鎖シナリオは2兆ドル(約319兆円)を大きく上回る損失をもたらす可能性があると、ロジウム・グループは2022年のリポートで試算している。

特筆すべきは、こうした損害の多くが一発の銃声も伴わずに発生し得る点だ。

ブルームバーグ・エコノミクス(BE)は今年2月、台湾を巡る米中の全面衝突が起きた場合、最初の年だけで世界経済に約10兆6000億ドルの損失が生じると試算した。世界の国内総生産(GDP)の約9.6%に相当する額だ。

これは新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)や世界金融危機(07-09年)の影響を上回る規模となる。

共産党政権の正当性を脅かす

われわれ全員が影響を受けるだろう。しかし、中国も例外ではない。台湾は中国にとって5位の貿易相手であり、電子機器や製造業に不可欠な供給源でもある。

中国が封鎖に踏み切れば、台湾が世界市場から切り離されるだけでなく、中国自らも重要部品へのアクセスを失い、自国経済に深刻な課題をもたらす。

それでも、習氏の判断は経済だけにとどまるものではない。中国語圏の民主主義である台湾の存在は、共産党政権の政治的正当性に挑戦し、不都合な問いを突き付ける。この民主的で繁栄した小さな島が経済的成功と政治的自由を両立できるなら、なぜ中国大陸ではできないのか。

こうした構図が、圧力が強まっている背景にある。中国が繰り返す演習は単なる軍事的リハーサルではなく、台湾を消耗させ、統一は不可避だと台湾の人々に認識させることを狙った心理的威圧でもある。

習氏は10日、台湾の最大野党で中国に融和的な国民党のトップを北京に招いて会談した。国民党は現在も立法院(国会)で停滞している400億ドル規模の防衛予算案の可決阻止に大きな役割を果たしている。

習氏は来月訪中するトランプ米大統領との首脳会談で、米国による台湾向け武器売却を抑制するよう求めるとみられ、危機時に米政府が台湾防衛に動くかどうかへの懸念は一段と高まる。

封鎖やそれに類する混乱のリスクは、もはや絵空事ではない。備えには従来とは異なる発想が求められる。米国と同盟国は、人民解放軍の軍事的圧力に対応し、その後に生じる経済的ショックを吸収する準備を整えなければならない。

鍵となるのは、米政府が発する金融市場向けのメッセージだろう。エイク・フライマン氏が新著「Defending Taiwan: A Strategy to Prevent War with China(台湾防衛:中国との戦争を阻止する戦略)」で指摘するように、米国は台湾や同盟国と連携しつつ、重要物資の流れを維持する経済戦略を構築すべきだ。

台湾の優先課題は、軍民両面で強靱(きょうじん)さを高めることだ。防衛力の強化と同時に、圧力を受けながらでもエネルギーやその他の重要物資が台湾に届く体制を確保する必要がある。

ホルムズ海峡は、戦略的要衝がいかに容易に武器化され、世界に大きな影響を及ぼし得るかを示した。台湾海峡で同様の混乱が起きれば、その影響もまた制御が難しいものとなるだろう。

(カリシュマ・ヴァスワニ氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、中国を中心にアジア政治を担当しています。以前は英BBC放送のアジア担当リードプレゼンテーターを務め、BBCで20年ほどアジアを取材していました。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)

原題:World Isn’t Ready for a Taiwan Strait Shock: Karishma Vaswani(抜粋)

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