(ブルームバーグ):工作機械メーカーの牧野フライス製作所は23日、政府がアジア系投資ファンドのMBKパートナーズに対し、買収計画を中止するよう勧告していたと発表した。政府が経済安全保障の観点から重要技術を守る姿勢を強めるなか、海外勢による日本企業買収を巡る環境が今後大きく変化する可能性がある。
牧野フの発表資料によると、MBKは当局との間で買収計画の承認取得に向けた協議を続けていたが、22日付で財務相と経済産業相から、外為法第27条第5項に基づき、同社株式の取得を中止することの勧告を受領した。
勧告によれば、牧野フは、軍事転用の可能性が特に高い機微な製品として輸出に際して経産相の許可が必要となる高性能な工作機械を製造するほか、関連の技術と情報を保有。日本の防衛装備品の製造業でも広く利用されているなどとして、外為法第で規定される「国の安全等に係る対内直接投資等」に該当すると判断したとしている。
片山さつき財務相は23日午前の参院財政金融委員会での答弁で、中止勧告を「行ったことは事実」と述べた。国の安全の確保などに関わる技術や情報が流出する可能性などを考慮して審査を行い、買収が国の安全を損なう事態を生ずるおそれがあると認められたため決定したとしている。

勧告を踏まえ、MBKは中止勧告を応諾するか5月1日までに政府へ通知を予定しているという。牧野フ株は23日、一時前日比10%安の1万420円と昨年5月9日以来の日中下落率となった。
ブルームバーグのデータによると、MBKは韓国に本拠を構えるプライベートエクイティ(PE)会社。日本では24年に米ブラックストーン傘下のアリナミン製薬を買収(価格非公表)したほか、過去にはゴルフ場運営のアコーディア・ゴルフ、介護サービスのツクイホールディングスの買収なども手掛けた。
牧野フによると、今回の勧告の判断の理由として、MBKやそのグループ企業の属性や資本構成に関する言及はないという。
MBK側の広報担当者は、今回の件について、日本の防衛・軍事分野の特性や環境が変化していることを踏まえ、日本政府が個別案件ごとに出した判断だと理解している指摘。その上で、日本政府の勧告について精査していると述べた。
2020年に完全適用となった改正外為法では、国家の安全保障にかかわる業種について、外資企業による買収を厳格化した。発行済み株式数または議決権ベースで1%以上の出資には、事前届け出が必要と定めている。また政府は経済安全保障を強化を打ち出している。3月には、対日外国投資委員会(日本版CFIUS)を創設することを盛り込んだ改正案を閣議決定していた。
牧野フによると、同社が保有する情報には、単一では必ずしも機微性が認められないとしても他の情報と組み合わせることで国の安全の確保に関する機微情報となるおそれがある。この懸念を踏まえるとMBKが買収に必要な情報にアクセスすることも困難となり、投資目的を達成できない可能性があるという。
改正前の同法に基づく政府の対応では、経産省と財務省が2008年に、英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)が申請した電力卸最大手、電源開発(Jパワー)株の追加取得計画の中止を命令した例があるものの、例外的なケースにとどまっていた。法改正により、安全保障を理由とした買収計画の差し止めが今後増える可能性もある。
牧野フを巡っては、25年5月にニデックが株式公開買い付け(TOB)の撤回を発表。その後の同年6月に、ホワイトナイトとされるMBKが牧野フに対してTOBを実施し、完全子会社化すると発表していた。TOBの開始時期は延期が続いていた。
(MBK側の情報を追加して更新します)
--取材協力:Cat Barton、関根裕之.もっと読むにはこちら bloomberg.com/jp
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