(ブルームバーグ):マーク・ザッカーバーグ氏はロボットだというジョークは長年にわたって語られてきた。しかし、それはもはや冗談ではなくなるかもしれない。
フェイスブック創業者でメタ・プラットフォームズの最高経営責任者(CEO)であるザッカーバーグ氏は、同社の技術を使って自身の人工知能(AI)版を構築している。事情に詳しい関係者が明らかにした。この「AI版ザッカーバーグ」は、本人の話し方や過去の発言を基に学習され、現在の企業戦略に関する同氏の見解も学習することになる。
従業員は将来的にザッカーバーグ氏のデジタル版と対話できるようになり、計画が順調に進めば、それとのやり取りを通じて同氏をより身近に感じる可能性があると、英フィナンシャル・タイムズ(FT)は先に伝えた。一方でメタは、ザッカーバーグ氏自身も現実では接することが難しい多くの従業員の声を、デジタルかつ要約された形で受け取ることで、従業員との距離を縮められると期待している。
ザッカーバーグ氏のデジタル版という発想は、米テレビドラマ「シリコンバレー」の一場面や米風刺メディア「ジ・オニオン」の見出しのように聞こえるかもしれない。しかし同氏のこれまでの歩みを見れば、それほど意外ではない。AIの台頭に巨額投資を行うなど、大胆な賭けに出ることで知られ、自社製品を自ら積極的に試す姿勢も特徴だ。
フェイスブックの中国進出を目指していた際には、中国語を習得した。チャットボットが流行し、AIアシスタントがまだ目新しかった時期から、自宅用の執事システムを自作し、スマートフォンで操作できるようにしていた。さらに、新型コロナ禍下でメタがリモートワークを強力に推進していた当時は、多くの会議をメタバース上で行っていた。
従業員と対話するためにAI版の自分を作るという試みは、実験的で同氏らしい取り組みと言える。ただし巨大な上場企業が、たとえ一部であってもAIのCEOによって運営されるという概念は、新たな可能性と同時に重要な疑問も提起する。
一方で、「AI版ザッカーバーグ」は、AIの真の価値を働く人々に示す可能性もある。上場企業のCEOらは既に、時間と労力を要する雑務を担うチームを抱えている。だがAI支持者は、こうした状況が変わろうとしているとみている。いずれ富や権力がなくても誰もが個人アシスタントを持てるようになり、ザッカーバーグ氏のような人物がAIを活用して企業運営を効率化できれば、他もすぐに追随する可能性がある。
ザッカーバーグ氏の場合、自身のAI版に業務を委ねることで、本来の強みである分野により注力できるようになる可能性がある。関係者によれば、同氏は既にメタのAI研究部門との会議出席を増やし、週5-10時間はコーディングも行っている。メタにとってザッカーバーグ氏が現場のエンジニアリング業務に携わる必要はないが、創業者自らが実験を重ね、次の大ヒットとなり得るアイデア創出に取り組むことは、同社にとってプラスとなる。
しかし歴史を振り返れば、強い影響力を持つ富裕層が大衆の現実感覚から乖離(かいり)してしまう例は少なくない。CEOと社員、あるいはユーザーの間にさらに技術的な層が加われば、その問題が一層深刻化する恐れもある。「AI版ザッカーバーグ」は現実の同氏よりもはるかに多くの従業員と接することができるだろう。だが、そのAIが彼らの声を十分に理解し、人間的な共感を伴う意思決定をできるのかは未知数だ。
この問いに答えが出るまでには、なお数年を要するかもしれない。かつての自宅用AI執事と同様、一過性の試みとして終わる可能性もある。いずれにせよ、その結末がわれわれにとって皮肉なものとならないことを願う。
原題:Zuckerberg’s Next AI Mission Is a Zuckbot: Tech In Depth(抜粋)
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