(ブルームバーグ):2000年代前半に中国のゲーム業界を席巻し、国内屈指の富豪となった陳天橋氏は、その後、メンタルヘルスの問題で自ら築き上げたビジネス帝国から身を引いた。
陳氏は今、米国で再出発し、いっそう捉えどころのない目標を追っている。それは、人間意識のソースコードを解明し、人工知能(AI)を人間より賢くすることだ。
陳氏は盛大グループの創業者。2004年の米ナスダック上場や「ミルの伝説2」のヒットなど、過去の成功で築いた資産を元手に、現在は、自ら「発見型AI(discoverative AI)」と呼ぶテクノロジーの開発を進めている。
コンテンツ生成の際に人間を模倣するよう設計された現在の大規模言語モデル(LLM)を超え、自律的に学習し応答できるAIを目指す。
一般に「汎用(はんよう)人工知能(AGI)」と呼ばれるこの種のテクノロジーは、自然災害への備えや新薬の発見にも役立つ可能性がある。
陳氏は9年ぶりに国際メディアの取材に応じ、単に人間を置き換えるのではなく、人間にはできないことを成し遂げるAIをつくり、人類の可能性を広げたいと語った。
そして、発見型AIの目標は、長期記憶と因果推論、予測モデリングを統合し、新たな知見を見いだすとともに、複雑な現実世界の出来事を予測することだと説明した。
スタートアップの育成や自社開発を含め、AGIに総額20億ドル(約3200億円)余りを投じる方針だという。インタビューは、カリフォルニアの海岸を望むガラス張りのオフィスからオンラインで行われた。
自身の投資判断の高度化や地政学的事象の予測、ニュースやスポーツの結果に賭ける予測市場サイトのポリマーケットでの成果向上にも活用できるかどうかについても試しているという。常識や自己修正能力を備えるAGIの実現はなお数年先と懐疑的にみる向きもあるが、数年前まで大勢だった「数十年はかかる」との見方は後退している。
盛大のトップである陳氏は、2000年代初頭にテクノロジー業界の有力起業家として台頭し、一時はアリババグループの馬雲(ジャック・マー)氏をしのぐ存在感を示した。
しかし、パニック発作により公の場から退いた。シンガポールで一定期間を過ごした後、米国に拠点を移し、盛大をテクノロジー分野に特化した投資プラットフォームへと転換した。資金は公開市場やベンチャーキャピタル(VC)、プライベートエクイティー(PE、未公開株)に投じられている。
ただ、米国での足場固めは難航した。レッグ・メイソンやレンディングクラブ、サザビーズなどに投資したものの、中国国籍であることへの規制上の懸念から取締役就任や経営への実質的関与は認められなかった。
トランプ政権1期目に米中関係の緊張が高まると、陳氏は受動的な金融投資へ軸足を移し、資産は増えたが個人的な充実感は乏しかったという。起業家としての目標は、他者が生み出した価値を分かち合うのではなく、自ら価値を創造することだと述べた。
米国に移り住んだ後、陳氏は脳研究への関与も強め、この分野に10億ドルを拠出し、カリフォルニア工科大学と提携した。現在は脳コンピューターインターフェース(BCI)テクノロジーの有力投資家となっている。
イーロン・マスク氏率いるニューラリンクも取り組む分野で、神経信号をデジタルコマンドに変換し、その情報を使って脳の特定の部分を刺激することで、てんかんやパーキンソン病などの神経疾患の治療を目指すものだ。
ここ数年の生成AIブームを受け、陳氏の人間の認知への関心は最先端AIの開発へと広がった。
投資規模は「ChatGPT」を開発した米OpenAIなど業界大手の巨額投資に比べれば小さいかもしれないが、単なる計算リソースの拡張ではなく、認知アーキテクチャーの突破口を狙う。同時に、膨大なデータ処理とインフラ確保に向け10億ドルを充てる計画だ。
主に米オレゴン州とカナダのオンタリオ州で2018年に取得した約70万エーカーの森林地を活用し、データセンター運営に必要な安定したクリーン電力を供給する計画だという。
米国で地熱エネルギーを利用した計算拠点の設置可能性を検討しており、世界中のAI科学者に開放したいと述べ、規制当局の承認や地域の支持を得られると自信を示した。
まずは数メガワット規模の試験的なコンピューティング施設から着手し、初期費用は3億-5億ドル程度を見込む。研究の複雑さを踏まえ、投資回収には忍耐が必要だとし、利益追求は急いでおらず、資本は十分にあると語った。
業界がバブル状態にあるとの見方も退けた。人類は自らを超える能力を持つ知性を創造しつつあり、マクロ的に見れば過去のいかなるテクノロジーバブルとも異なるとの見方を示した。
原題:China’s First Gaming Billionaire Aims for ‘Smarter-Than-Man’ AI(抜粋)
--取材協力:Jinshan Hong.
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