(ブルームバーグ):ダリオ・アモデイ氏の姿を目にするのは、珍しいチョウを見つけるようなものだ。人工知能(AI)スタートアップの米アンソロピックの最高経営責任者(CEO)である同氏は最近、英国を訪れた。オックスフォードシャーで開かれた欧州大手企業50社の経営者との会合に出席するためだった。
ジャコビアン様式の邸宅で開かれた同社主催の招待制イベントには、現在アンソロピック顧問を務めるスナク前英首相も参加していた。アモデイ氏はその後、欧州の別の地域を訪問する予定だったが、英国に1、2日滞在しただけで終わった。
なぜ同氏と接触することはこれほど難しいのか。背景には、危険すぎて一般公開できないとする最新のAIモデル「Mythos(ミュトス)」の存在がある。アンソロピック社員はこの技術にアクセス可能で、従来モデルよりも人間らしいと評価している。しかし、サイバー攻撃に悪用することも可能なため、同社は目下、数十の組織に限定して試験利用と検証を認めている。
同モデルの威力と潜在性は、アモデイ氏が目指すトランプ政権との関係修復にも追い風となる見通しで、Mythosを一般公開することにも同氏は前向きだ。実現には難しいかじ取りが必要となるが、アモデイ氏は今のところ何とかやり遂げている。
アンソロピックはMythosの市場投入と、新規株式公開(IPO)に向けた準備を急ぐ一方で、社会的責任を果たす企業としての姿勢も打ち出している。アンソロピックの関係者によると、同社は世界各国の組織と協議し、自社の技術がもたらす「衝撃を吸収する」ための支援を行っている。
その一環として、スイスに本部を置く金融安定理事会(FSB)に対し、Mythosに絡むサイバーリスクについて非公開の説明会を行ったほか、ローマ教皇が世界のカトリック教会に向けてAIに関する立場を表明する際にも同席した。
ローマ教皇レオ14世がAI軍事利用に警鐘を鳴らしたこの発表の場に、アンソロピックは共同創業者のクリストファー・オラー氏を派遣した。一方で、自社技術の軍事利用を巡って米国防総省を提訴していることは、同社が二つのことを同時にこなす能力を備えていることを示している。
アンソロピックは企業として常に矛盾を抱えてきた。同社は最も安全なAI企業を標榜(ひょうぼう)しつつ、世界への影響が未知数かつ検証も不十分な超知能マシンの開発競争を急ピッチで進めている。
また、公益法人への組織再編によって原則重視の企業という高潔なイメージを醸し出す一方で、IPOを通じてAIブームの果実を手にしようとしている。対話型AI「Claude(クロード)」には倫理的な行動指針となる憲法を与えたが、同時に人間ユーザーの依存を助長しかねない不気味なほどの親密さや迎合性も持たせた。
同社がロンドンで開催した開発者向けのイベントでも、こうした矛盾は際立っていた。人気プログラミングツール「Claude Code」の最新情報を手に入れようと、倉庫のような会場には金融やエネルギー業界、大手スタートアップなどから数百人のエンジニアが集まった。複数のワークショップでは、AIの自律性向上が紹介され、数十から数百のAIエージェントが、人間の指示なく何時間も作業を継続的に実行できる機能などが披露された。
ウォール街の大手銀行に勤める開発者の1人は、これに不安を覚えたと語った。AIツールの自律性を高めるほど、問題発生時に責任の所在を追跡することが難しくなるというのが理由だ。同氏はこの技術を制御するための手段をもっと増やすべきだと考えている。
こうした懸念を筆者がClaude Code製品責任者のキャット・ウー氏にぶつけると、同氏はシステムは「極めて安全」だと述べ、「問題は、私たちが製品にどのように安全性を組み込んでいるかを十分説明できていないことにある」と語った。つまり、問題は統制そのものではなく、コミュニケーションにあるという趣旨だ。
ウー氏は、アンソロピックのモデルは時間とともに、より独立的かつ能動的になることを目指していると説明。「Mythosはその特性を示すモデルだ」と付け加えた。金融のような当局の規制下に置かれ、システム上重要な業界では、人間による統制強化を求める声が上がっているが、アンソロピックは逆に、人間の関与を減らす方向へと技術を進化させている。
会議に参加した多くの開発者はAIによるコーディングを評価していたが、自らが工程から切り離されつつあることや、ツール内部の仕組みが「ブラックボックス化」していることに不安を覚える人もいた。
ある開発者は、1年前のClaude Codeは処理過程を逐次テキスト表示していたが、現在は標準設定で非表示となり、確認するには探しに行く必要があると指摘した。不透明になった出力過程については、他の開発者からも不満が出ている。
ただ、会場の開発者たちはそれほど気にしていないようだった。これはまさに、人間が自分で制御しなくなりつつあることを示す新たな証左だ。思考プロセスを確認しなくてもいいほど、Claudeを信頼するに至ったのだ。
アンソロピックはFSBやバチカンとの関係構築を進めるほか、開発銀行や国連機関との連携を担う人材の募集も行っている。同社のツールがさらに高い自律性を備えるようになれば、こうした対外活動は今後ますます重要になる可能性が高い。
技術が進歩するほど、世界は同社を一段と信頼するよう求められるだろう。アモデイ氏が競合勢と競争を繰り広げながらMythosの安全な市場投入を進めるにつれ、この綱渡りは一段と難しくなるかもしれない。
(パーミー・オルソン氏はブルームバーグ・オピニオンのテクノロジー担当コラムニストです。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)やフォーブスで記者経験があり、著書は「Supremacy: AI, ChatGPT and the Race That Will Change the World」など。このコラムの内容は個人の意見で、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの見解を反映するものではありません)
原題:Anthropic’s Latest AIs Are Making Customers Uneasy: Parmy Olson(抜粋)
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