機械受注全体の受注残高の増加に防衛力強化も寄与している可能性
近年、景気の回復や、深刻化する人手不足に対応するための省力化投資・DX投資の必要性の高まりを背景に、企業の設備投資意欲は旺盛であり、日銀短観など企業の計画からもそのことが裏付けられている。
一方、そうした計画に見合うだけの設備投資(機械投資や建設投資など)の実績が十分に表れてきていないことも指摘されており、機械受注統計においても、機械投資における進捗の遅れが、受注残高の積み上がりとして表れている可能性があるとされている。
民需や官公需等を含めた機械受注全体の受注残高を見ると、2022年以降に急速に上昇しており、2021年に30.7兆円だったものが、2025年には47.2兆円と、2021年対比で+16.5兆円も増加している。

堅調な設備投資需要の下で、フローの受注額が大きく伸びている。しかし、人手不足で機械の製造が追いつかないことや、同じく人手不足や建設費高騰などにより建設工事が停滞し機械搬入の時期が後ろ倒しになるといった背景から、支払時期が遅れ、販売額(売上)が受注額に追いついていない。
それによって受注残高が急速に増加していると考えられる。
また、近年の物価上昇により、受注単価自体が上昇している影響もあるが、日本銀行の「最終需要・中間需要物価指数」における資本財(国内品)をデフレーターとして受注残高を実質化してみても、やはりその伸びは急速である。
この点、受注残高と販売額については、需要者別には調査されていないため、官公需の影響は直接には分からないものの、受注残高を機種別に見ると、2021年から2025年にかけて受注残高が大きく増加した上位3位は、電子・通信機械(+4.3兆円)、船舶(+3.4兆円)、航空機(+3.1兆円)となっている。

この間、フローである受注額は、2021年から2025年にかけて、航空機や電子・通信機械が官公需によって大きく伸びている。
先述のとおり、防衛装備品は国債負担行為の仕組みを使って複数年契約で発注・納品されるものも多く、航空機などが受注残高の増加に影響している可能性がある。
機械受注全体に占める規模感を見ても、2023年度以降の防衛力強化の取組が、全体の受注残高増加に寄与している可能性は十分あると考えられる。
また、前掲の図3が示しているように、1兆円を超えるような規模の受注が年度末に集中しているのは、執行面で発注時期の平準化が十分でない状況を窺わせ、そのことも受注残高の増加につながっている可能性が考えられる。
懸念されるのは、こうした防衛力強化の動きが、民間の設備投資の進展を阻害していないかどうかである。
日本全体で人手不足は深刻な状況にあり、受注をさばくための供給体制にも限界がある。機械製造も建設工事も遅れが目立つ中で、その上に公的需要が民間需要をクラウディング・アウトしている恐れがある。
我が国の安全保障を取り巻く環境は急激な変化を迎えており、防衛力強化自体は重要な論点であるし、また、防衛産業の育成の観点でも意義がある。
他方で、現在の我が国は少子高齢化の中、投資を拡大するにしても、そのための供給能力自体にボトルネックを抱えるというジレンマに直面している。
今年は安保関連三文書の前倒し改定を控え、防衛費の更なる規模拡大も取り沙汰されているところであるが、単純に予算を拡大させたとしても、実際の機械設備の供給は、人手の充足や工場の稼働率などの状況に応じ、出来るものから供給していく他はない。
防衛費2%超への引上げ議論を巡っては、我が国が直面する供給制約にも目配りし、現実的な目標を設定する必要がある。
このようなことは、広範な産業で人手不足が広がる我が国においては、防衛費に限った話ではない可能性もある。
政府が財政資源を注ぎ込んで官による投資を増やすに当たっては、その実際の供給をどう実現するかも含め、戦略的に優先順位を見極めていく必要があると考えられる。
(※情報提供、記事執筆:ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員 野村彰宏)
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